最近はゲーム実況者や動画クリエイターなど昔に比べてPCの用途が一般層でも変わってきている。今まではゲーミングPCを使うことが多かったクリエイター達だが、負荷の高い動作を長時間続けているとPCが1年経たずに壊れてしまうこともある。ASRock X570 Creatorは他社マザーボード含め、日本で公式にクリエイター向けをうたった初のマザーボードである。今回のレビューではクリエイターにとって大切な高負荷状態を長時間維持しても問題ないのかをメインにレビューしていく。

スペック

対応CPURyzen1000~5000シリーズ
搭載チップセットX570
ソケットAM4
フォームファクタATX
CPU補助電源構成8 + 4 pin
VRMフェーズ数14フェーズ
対応メモリ4 x DIMM, Max. 128GB, DDR4
4666MHz~3466MHz (OC)
3200MHz~2133MHz
ECC and non-ECC, Un-buffered Memory
マルチGPU2-Way NV-Link SLI/SLI
3-Way CrossFIre X
拡張スロット2 x PCIe 4.0 x16 (x16/x4)
3 x PCIe 2.0 x1
ストレージSATA3 (6Gbps) x 8、M.2 (PCIe4.0x4/SATA3) x 2
LANAQUANTIA Marvell AQC107 (10G LAN)
Intel I211AT (1G LAN)
無線Intel AX200 802.11ax (2.4 Gb/s) / BlueTooth 5.0 Combo
搭載オーディオRealtek ALC1220
背面インターフェースUSB3.2 Gen1 x 6
Thunderbolt 3 Type-C x 2
RJ45 (1G) x 1
RJ45 (10G) x 1
PS2 x 1
HDMI Out x 1
DisplayPort In x 1
1 x Optical S/PDIF out
5 x Audio jack(s)
1 x USB BIOS FlashBack Button

パッケージ・開封

 パッケージは青地で幾何学模様がベースとなっている。ASRockのマザーボードのパッケージ表面処理はつるつるしているので光沢感がある。

 背面はX570 Creatorの機能がイラスト付きで説明されている。右下にはスペックと様々な認証ロゴが印刷されている。

 パッケージから出すとASRockロゴが入った黒地の箱が現れる。箱を開けるとマザーボード本体ではなく、付属品が最初に顔を出す。

 付属品をすべて取り出し、奥に進むと静電気防止袋に入ったマザーボードが出てくる。ASRockのマザーボードは写真右側のようにスポンジで保護されている。

付属品

 説明書は完全に日本語のものがついてくる。他メーカーでは様々な言語で書かれた説明書の中に一部日本語の説明がついているということが多いがASRockは独立した日本語説明書が付属している。右側の写真はマザーボードのメモリスロットについての説明書である。こちらは英語表記だ。

 ドライバは光学ディスクを使用している。最近はUSBメモリにドライバソフトウェアを保存しているメーカーもあるが、データの保持性能の点ではやはり光学ディスクが優れている。

 X570 CreatorはWi-Fi/BlueToothに対応しているのでアンテナももちろん付属している。マザーボードから直接出るアンテナではなく、アンテナケーブルで延長する独立したタイプのものが付属している。

 I/Oパネルはマザーボード一体型になっていないので自分でケースに取り付ける必要がある。デザインはマザーボードのデザインと一緒でグレー、ブラック、ブルーの配色である。

 あまり見かける機会のないMiniDisplayProtからフルサイズのDisplayPortのケーブルも付属している。X570 CreatorはThunderbolt3に対応しているのでQuadroシリーズやRadeon Proシリーズの一部の映像入力として使うものだろう。

 X570 CreatorはNVIDIA SLIに対応しているのでSLIブリッジも付属している。マザーボードの仕様としてはQuad SLIまで対応しているが、付属しているブリッジは2 Wayのものである。

 SATAケーブルは4本付属、M.2 SSDの固定用スタンドオフ、ねじは2つずつ付属している。

リアI/Oをチェック

 I/Oパネルはマザーボードに取り付けられてはいない。搭載されているボタン、ポートはBIOSフラッシュバックボタン、Wi-Fiアンテナ取り付け口、PS/2ポート、HDMI2.0(出力)、DisplayPort1.4(入力)、USB3.2Gen1 x 6、Thunderbolt3 x 2、ギガビットLAN、10GLANポート、光デジタル端子、3.5mmオーディオジャック群となっている。

 HDMIポートは映像出力に対応しているのでAPUを使用した場合はこのHDMI端子から出力される。DisplayPortについてはThunderbolt3用の映像入力端子なので映像出力には対応していない。

 USB3.2Gen1ポート(Type-A)については6ポートうち下の2つのポートに関しては12V電源から降圧して5Vを作り出すことで電力供給を安定させるウルトラUSBパワーに対応している。Thunderbolt3に対応したUSB3.2 Gen2 Type-Cポートは2ポート用意されているので対応機器により40Gbpsの高速通信に対応している。また電力供給は5V3Aの15W出力に対応しており急速充電にも対応している。ThunderboltはUSB Power Deliveryに対応しているのでUSBと別系統の電力源を持っているため他USBポートよりも安定した電力供給が可能となっている。

 ギガビットLANポート、10GLANポートはIntel I211AT、AQUANTIA Marvell AQC107を採用している。Intel I211ATは互換性が高いことが大きなメリットでWake on LANにも対応している。AQUANTIA Marvell AQC107は10Gbpsまでの高速通信が可能なので大容量のファイルを使用するクリエイターにとっては非常にありがたいだろう。

マザーボードの外見・実装パーツをチェック

 それでは実際にASRock X570 Creatorの外見、実装されているパーツを見る。

 マザーボード全体のデザインは今まではやっていたゲーミングとは一味違った志向で派手さはあまり感じられない。またマザーボードやヒートシンクにはRGB LED用のピンヘッダは用意してあるもののRGB LEDは搭載されておらず流行りの光るマザーボードではない。LEDが搭載されるとLEDのPWM制御の影響でノイズが発生することになるのでクリエイターのことを一番に考えるのであればRGB LEDは搭載していない方が良いのだろう。PCBには2ozの銅を使用しており非常に高品質の基板である。

 CPUソケットは一般的なAM4ソケット、Ryzen 1000シリーズから5000シリーズまですべてに対応している。

 CPUの電源回路は仮想14フェーズ、チョークコイルはASRockの高品質チョークコイルPremium 60A Power Chokeが採用されている。コンデンサはニチコン製の12Kコンデンサが使用されている。これは105℃環境で12000時間の動作保証がされている非常に高耐久のものである。

 PWMコントローラーには6+2フェーズ対応のIR35201が採用されている。搭載されているMOS-FETは60A Dr.MOSであるIR3555Mが採用されている。変換効率は最大95%を誇る。

 背面にはフェーズダブラー(IR3599)が見えるので物理6+2フェーズの電源回路で仮想12+2フェーズの電源回路であることがわかる。

 CPUの補助電源コネクタは8+4pin構成となっている。オーバークロック向けのマザーボードでは8+8pin構成の電源コネクタを採用しているところも多いが、このx570 Creatorはコンテンツ制作向けでオーバークロックはそこまで考えられていないものの、ハイエンドCPUを搭載した際に最高のパフォーマンスを発揮するために大容量の電流を流せるように設計されている。

 VRMヒートシンクはCPUソケット左側のヒートシンクとCPUソケット右側のヒートシンクがニッケルメッキされた銅製ヒートパイプで連結されている。

 ヒートシンク形状は非常に特徴的で中央部分が空洞になった「G」形状をしている。

 サーマルパッドを含めたVRMヒートシンクの重量は292.89gで合計14フェーズの60A Dr.MOS電源回路を冷やすには十分だろう。

 メモリスロットは4本で最大128GBまで対応。動作クロックは定格3200MHzまで、OCでは4666MHz以上にも対応している。メモリスロットのロック機構は片側ロックである。メモリ用の電源回路はプレミアムメモリ合金チョークが採用されており対電磁波干渉性や耐熱性に優れる。ATX24pinコネクタやCPU補助電源コネクタのピンは従来のものよりも太く約倍の電流を流せるASRock Hi-Density Powerコネクタを採用している。これにより大容量の電流を流しても耐えられる設計となっている。

 CPUソケット左のVRMヒートシンクの下には小さなヒートシンクが用意されており、Thunderboltチップを冷却している。ヒートシンク横にはDisplayPortの入力端子が設けられておりI/OパネルにあるDisplayPortを使用せずこちらを使用してもThunderboltに映像信号を乗せることができる。

 X570チップセットは比較的高発熱のチップセットであるため、チップセットファンが搭載されているマザーボードが非常に多い。このX570 Creatorに搭載されているチップセットファンはEBRファンと呼ばれ、EBRベアリングを搭載することで高寿命化を実現している。一般的なスリーブベアリングファンと比較して約4倍の製品寿命を誇り、最大50000時間の製品寿命を実現する。風量は5000RPMで4.92CFMと多い。チップセットファンの隣にはフロントUSB3.2 Gen2ポート(Type-C)が用意されている。

 マザーボード下半分の拡張スロットはx16形状が3つ、x1形状が3つの構成である。x16形状のスロットはPCIe4.0に対応、x1形状のスロットはPCIe2.0規格である。SLIやCrossFireは最大4Wayに対応しマルチGPU構成も充実している。

 ヒートシンクを外すと2つのM.2スロットが現れる。どちらのスロットも最大22100サイズのM.2に対応し上のM.2スロットはNVMe/SATAに対応している。下のM.2スロットはNVMeのみの対応になるため注意が必要である。Gen4 SSDにまで対応しているのでRyzen3000シリーズ、5000シリーズを搭載している際は非常に高速なストレージを搭載することができる。

 x16形状のPCIeスロットはSTEEL SLOT GEN4が採用されている。信号の安定性を向上させ、重たいグラフィックスカードを確実に固定できるようにアンカーポイントが従来の4か所から6か所に増えている。
また一番下のx16スロットが占有されていてThunderboltが有効になっている場合、下のM.2スロットは使用できなくなるので注意が必要である。

 上段のM.2ヒートシンクの重量は29.76gと重量は一般的である。X570 CreatorのM.2ヒートシンクの造形は他社のものと比べて表面積が大きく作られているので放熱性は同重量のものよりも大きいだろう。

 下段はチップセットファンまで覆う形状をしているためM.2ヒートシンクの重量も重たく94.05gという結果になった。

 SATAポートは合計8基用意されている。うち下4つに関してはASMedia ASM1061チップによって制御されている。

 マザーボード右下にはDr.Debugと呼ばれるエラーコード等を表示するデバッグLED、リセットスイッチ、パワースイッチ、CMOSクリアスイッチを搭載している。フロントパネルコネクタにはどのピンがどのケーブルに対応するか記載してあるのでPCの配線もやりやすい。

 オーディオチップにはRealtekのALC1220を採用。コンデンサにはニチコン製fineゴールドを5つ搭載しているなどオンボードオーディオに関しても抜かりがない。

 P1.30と書かれているチップがBIOSが保存されている256MbのAMI UEFI BIOSチップである。

 X570 CreatorはCPUやメモリが搭載されていない状態でもBIOSアップデートが可能なBIOS FlashBack機能が搭載されている。一番上のM.2スロットの近くに搭載されているFLASHBACKと書かれたチップがその役割を担う。

 マザーボード背面にはシステムの管理を行うSuperI/Oチップ Nuvoton NTC6683が搭載されている。通常であれば表面に実装されているこのSuperI/Oチップだが、X570 Creatorは実装部品が非常に多いので背面に搭載することになったのだろう。

動作検証

検証環境

OSWindows 10 Pro 1909
CPUAMD Ryzen 9 5950X
CPUクーラーNoctua NH-U12A
マザーボードASRock X570 Creator
メモリCentury Micro CK16GX2-D4U3200
グラフィックスカードELSA GeForce RTX3090 ERAZOR X
SSDSamsung 980Pro 500GB
電源Cooler Master V1200 Platinum
ケースFractal Design Define 7 Compact

VRMの温度をチェック

OCCT:7.2.3:OCCTテスト

 OCCTを利用して30分間CPUに負荷をかけ続けた。VRMの温度推移はアイドル時は42度となり使用CPUは違うものの最近のZ590マザーボードなどと比べると少し温度が高い。ストレステストを実行し、負荷をかけ続けると徐々に温度が上昇し、58度まで達した。そのまま負荷をかけ続けても58度で安定しておりそれ以上上がることはなかった。

OCCT:7.2.3:Powerテスト

 次に CPUとGPUに負荷をかけ続けるOCCT:Powerテストを3時間実行した。CPUの負荷に加え、GPUへの負荷が追加されるのでマザーボードにはより強い負荷がかかる。特にCPUのPCIeコントローラーを使用することになるのでCPUが要求する電力も多くなる。VRM温度は最終的に最大温度73度を記録した。昨今のB550マザーボードやIntelのZ590マザーボードに比べれば相変わらず温度は高めに感じるが、Ryzen9 5950Xをこの温度で抑えることができているのは素晴らしいだろう。

Prime95

 続いて素数を計算し続けるPrime95を6時間動作させ続けた。不安定なマザーボードを使用するとすぐにエラーを出すこのPrime95だが、X570 Creatorでは一切エラーを出すことなく全コア負荷100%を維持し続けることができていた。温度に関しては最大63度とVRMヒートシンクの冷却性能は十分だった。長時間の動作をしてもそれ以上温度は上がらなかったため非常に重たいといわれているこのPrime95でもX570 Creatorのヒートシンクがあれば冷却しきることができる。

メモリの安定性をチェック

 動画書き出しやライブストリーミングで非常に重要になるメモリクロックの安定性だが、X570 Creatorではメモリにアイドル時、負荷をかけたとき共にメモリクロックが上下にぶれることはなかった。メモリクロックが下がってしまうと動画書き出し時や配信時のコマ落ちの原因となってしまい、最終的に音ズレが起きてしまう。X570 Creatorはメモリの安定性はもちろんだが、マザーボードのメモリ周りのクオリティも非常に高い。

 ちなみに3万円ほどの一般的なマザーボードで同メモリを使用した際のメモリクロックの変動が上のグラフである。1599.8MHzを中心に1699.6MHzから1600MHzを推移している。まれに1599.2MHzや1600.4MHzへとメモリクロックが飛んでしまっていることがグラフから見て取れる。これを見るとX570 Creatorのメモリ周りのクオリティの高さが嫌でも理解できる。

M.2ヒートシンクの冷却性能をチェック

 続いてM.2スロットの性能を測定する。今回はいつも使用しているCrystal Disk Markではなく、動画編集の際にM.2SSDがどれくらいの温度になるかを疑似的に表すためにSamsung 980Proに300GBのファイル転送を行って温度変化を観察する。

M.2スロット(上)への書き込み

 上の段のM.2に書き込んだ際は約59度まで温度が上昇した。ヒートシンクが全くない状態で300GBを書き込むとM.2 SSDの温度は80度以上になりサーマルスロットリングが引き起こされることだろう。30gほどのヒートシンクだが、300GBの連続書き込みでも動作温度を十分に抑え込めるため、動画書き出しはもちろん動画編集時のプロキシ作成にも重宝するだろう。

M.2スロット(下)への書き込み

 下のM.2ヒートシンクは非常に大きいためさらにM.2 SSDを冷やすことができている。動作温度は最大53度となり300GBのデータ書き込みを行ったとは思えない温度となった。表面積が小さく、体積も小さいM.2ヒートシンクを使用している場合のアイドル時温度とそう変わらない温度で巨大ファイルの書き込みができているので冷却性能は言わずもがなだろう。

総評

 重たい負荷を連続してかけ続けても余裕でさばける基盤から作りこまれたマザーボードといった印象がX570 Creatorを触ってみた印象だ。クリエイター向けマザーボードで重視されることは短時間の高性能ではなく、長時間安定して性能を維持できることだろう。今回の性能検証では最大6時間の負荷にとどまったが、エラーの発生は0なのでさらに長時間の負荷テストやエンコードを行っても安定して動作することが見込めるだろう。またThunderbolt3ポートを2つ搭載していること、10GLANとギガビットLANのデュアルLANを搭載していること、ウルトラUSBパワー対応USBポートが準備されている点など環境構築に対しての優秀さも群を抜いている。クリエイターがAMD Ryzenシリーズを使うのであればこのASRock X570 Creatorが最も適切なマザーボードだろう。

 難点を挙げるとしたら約6万円という価格の高さ、Thunderboltと一番下のPCIeスロットと下段のM.2スロットを同時に利用することができない点、理想を言えばギガビットLANではなく2.5GLANを搭載していてほしかったというところだろうか。

 本当の意味での万能マザーボードなので暴れ馬的なPCをねじ伏せることに喜びを感じる人にはあまりお勧めできないマザーボードだが、名前の通りクリエイターや仕事で高負荷状態を維持する人にはベストなマザーボードだろう。