近頃各社マザーボードメーカーが出し始めているクリエイター向けマザーボードはフォームファクタがATXのものばかりだ。これは動作の安定性を確保するためにある程度のスペースが必要なこと、Thunderboltに対応するために様々な部品を実装する必要があり物理的にスペースが必要なことなど様々な理由が挙げられるだろう。そんな中GIGABYTEからMini-ITXながらもクリエイター向けを謳うマザーボードが発表された。小規模なデザイナー事務所やYouTuberなどにお勧めできる安定性、性能を誇るのか検証していく。

スペック

対応CPUIntel 11th / 10th Gen Core、Pentium Gold、Celeron
搭載チップセットZ590
ソケットLGA1200
フォームファクタMini-ITX
CPU補助電源構成8 pin
VRMフェーズ数14フェーズ
対応メモリ2 x DIMM, Max. 64GB, DDR4
4600MHz~3466MHz (OC)
3200MHz~2133MHz
Un-buffered Memory
ECCメモリに関してはnon-ECCモードで使用可
マルチGPU非対応
拡張スロット1 x PCIe 4.0 x16
ストレージSATA3 (6Gbps) x 4、M.2 (PCIe4.0x4) x 1(Intel 10Gen CPUは非対応)、M.2 (PCIe3.0x4/SATA) x 1
LANIntel I225-V 2.5G LAN
無線Intel AX200 802.11ax / Bluetooth 5.1
搭載オーディオRealtek ALC4080 codec
背面インターフェースUSB3.2 Gen1 x 4
USB3.2 Gen2 x 2
Thunderbolt 4 Type-C x 2
RJ45 (2.5G) x 1
DisplayPort In x 1
LINE IN x 1
LINE OUT x 1
1 x Q-FLASH PLUS button

パッケージ

 GIGABYTEのマザーボードはGIGABYTEブランドで出しているものAORUSブランドで出しているもの共に黒いパッケージに入っているものが多いが、VISIONシリーズに関しては白いパッケージが用意されている。パッケージに貼られている通りGIGABYTEのマザーボードには安心の6か月間CPUソケットのピン折れを保証する制度があり、自作PC初心者にもやさしいメーカーとなっている。

 背面も非常に凝ったデザインとなっている。マザーボードの簡単な説明やスペックシートが記載されている。

 側面は主に簡単な仕様、代理店シールが貼ってある。代理店保証はマザーボードとしては少し長めの2年保証となっている。

 Z590I VISION D本体の梱包は非常に厳重なものとなっている。

付属品をチェック

 Z590I VISION Dには他マザーボードによく付属しているようなステッカーやアクセサリーのような小物は付属していない。必要なもののみが付属しているというシンプルな内容物だ。

 ユーザーマニュアルは完全に日本語のものが付属、ドライバソフト類はDVDに記録されている。またGIGABYTE AORUS製品を中心に販売しているECサイトであるAORUS4Uの招待カードも付属していた。

 Wi-FiアンテナもVISIONシリーズを連想させる白いボディが採用されている。マザーボードとの接続は2本の端子で行う。

 Z590I VISION Dは基板上のスペースを有効活用するためにファン端子は小さい独自のものが使用されており、延長ケーブルでPWM4pinケーブルを接続する。メモリスロット左横に3つ端子が用意されている。

 ARGBの延長ケーブルは1本、SATAケーブルは2本付属している。

 M.2固定用のねじは2個、スタンドオフは1個付属品として入れられている。

マザーボード外観をチェック

 それでは実際にマザーボードを取り出し、外観をレビューする。Z590I VISION DはMini-ITXのマザーボードということで、17cm x 17cmの非常に小さなスペースに所狭しとパーツが詰め込んであることが見てとれる。

 表面を見て一番に感じるのはヒートシンクの平面さと白さである。またヒートシンクはすべてヒートパイプで連結されており小さいながらも発熱を分散し効率よく放熱するように設計されている。

 背面にはM.2スロットが1つ用意されていることがわかる。またMini-ITXマザーボードとしては珍しくバックプレートが取り付けられている。クリエイター向けマザーボードということもあり、費用と長時間の発熱に対して冷却効率のどちらを取るかと考えた際に冷却効率が選ばれたのだろう。

I/Oパネルをチェック

 I/Oパネルも白が基調となっている。写真左からThunderbolt4の映像入力用のDisplayPort IN端子、Thunderbolt4端子が2つ、その上にはオーディオ用のLINE OUT/IN端子、BIOSアップデート用のQ-FLASH PLUS Button、USB 3.2 Gen1ポートが4つ、Wi-Fi/Bluetoothアンテナ端子が2つ、USB 3.2 Gen2ポートが2つ、その上には2.5GLANポートの構成となっている。Mini-ITXマザーボードで初めてThuderboltを搭載したASRockのX570 Phantom GAMING ITX/TB3はThunderbolt端子が1つだけだったが、このZ590I VISION Dでは2ポート用意されている。Thunderboltは電源供給が別系統からなので電力消費が大きいUSB機器を接続する際にも重宝するだろう。

マザーボードの実装部品をチェック

 それではさらにマザーボードに実装されている部品を細かく見ていく。

 CPUソケットはIntel 第10、11世代に対応したLGA1200が搭載されている。メーカーはLOTES製だ。

 ヒートシンクは黒い塗装が施されたものの上に白いプレートを張り付けている構造となっている。この白いプレートがVISIONシリーズの高級感を演出している。

 CPUの補助電源コネクタは8pinが1つのみであるが、金属プレートでシールドされておりソリッドピンを使用しているため接触抵抗が小さく低発熱で高電流を流すことが可能だ。

 PWMコントローラーにはISL69269が採用されておりこのチップ1つでCPU Core、メモリ、グラフィックスチップの電力供給を制御している。PWMコントローラーの下にはファン用の独自コネクターが用意されている。

 CPUに電力を供給するVRMは8+1フェーズの構成となっている。CPUのvCoreへの電力供給にはRenesasIntersilのISL99390を使用。90AのDr.MOSと非常に高性能だ。また各電源フェーズに使用しているチョークコイルはサーバーグレード品を使用しており高効率、低発熱である。

 CPUに内蔵しているグラフィックチップへの電力供給はVishay Siliconix SiC649Aを使用。こちらもDr.MOSだが、60A品を採用している。

 VCCGT用のMOS-FETにはSiC651Aを採用。こちらは50AのDr.MOSだ。

 CPUソケット裏側にはPOSCAPタンタルコンデンサとMLCCセラミックコンデンサが配置されている。これにより電流を整流しノイズを除去することで高品質で安定した電力供給を可能にしている。

 メモリスロットは両ラッチ仕様、グラフィックスカードを刺したままのメモリ挿抜は難しいだろう。またメモリスロットは金属でシールドされており他の部品から出る電気的なノイズを対策している。このあたりはクリエイター向けマザーボードならではといったところか。

 メモリスロット右側にはフロントパネルピンヘッダー、USB2.0ヘッダー、USB 3.2 Gen2 Type-Cヘッダー、USB3.2 Gen1 Type-Aヘッダー、SATAポート x 4、ATX24pin電源コネクターが用意されている。ATX24pinコネクターはCPU補助電源同様金属製シールドで覆われたうえ、ソリッドピンを使用することで接触抵抗を低減している。

 PCIeスロットはMini-ITXマザーボードなのでx16形状のものが1つのみである。PCIe4.0規格に対応し、最新のGPUを搭載した場合でも十分な性能を発揮することができる。ステンレス製の補強が施されており強度は十分でノイズにも強い。

 白いカバーを外し、M.2ヒートシンク、VRMヒートシンクを外すとZ590チップセットが現れる。左にあるiTE製のチップはSuper I/Oのチップである。さらにその左にあるチップにはBIOS情報が保存されている。

 搭載しているLANは2.5Gに対応したものである。チップはIntel製でI225-Vと呼ばれるものが搭載されている。その上には見づらいがARGBのピンヘッダーが搭載されている。

 I/Oシールドを外すとさらにI/Oポート類のチップが現れる。

 Z590I VISION DはIntelJHL8540 Thunderbolt 4コントローラーチップを搭載しているのでThunderbolt4が使用可能である。Thunderbolt4はチップセット経由でPCIe 3.0 x 4を使用し、最大2つのThunderbolt4ポートを使用することができる。電力供給量は5V3Aなので非常に高出力でもある。

 I/Oパネルに用意されているオーディオ用のLINE IN/OUT端子はマザーボード本体とケーブルで接続された別基板から出されている。搭載されているオーディオチップはIntel第11世代向けマザーボードから搭載され始めたRealtek ALC4080を採用している。小型、省スペースを実現する際に利用する人が多いMini-ITXマザーボードではオンボードオーディオに高性能なチップを採用していることに大きなメリットを感じる人も多いだろう。

 無線LANに関しては縦にIntelAX200カードが刺されている。Wi-Fi6に対応し、Bluetoothは5.1に対応している。

 背面のバックプレートを外すと裏面にも実装されているコンデンサーやチップ類が多いことがうかがえる。背面のM.2スロットはGen4規格には対応していないものの、Gen3とSATAに対応している。

Z590I VISION Dのヒートシンクをチェック

 Z590I VISION Dに搭載されているヒートシンクを見ていく。

 VRMとチップセットヒートシンクが一体になったこの大型ヒートシンクは237.47gとMini-ITXマザーボードとは思えない重量をしている。少ないスペースでどれだけの放熱効果を確保するかは非常に難しい問題だが、発熱量がそこまで大きくないチップセットのヒートシンクと電源回路のヒートシンクを共用することでCPUに高負荷がかかった場合でも冷却性能を担保している。

 M.2スロットの位置に用意されていたGIGABYTEと入ったこのヒートシンクカバーにはサーマルパッドは付いていないが高負荷時にはこのカバーも高熱になる。

 背面にはサーマルパッド等は貼られていないので熱を吸い取る効果もないだろう。

 飾りではあるものの金属製であるため重量は50gと非常に重たい。

 M.2ヒートシンクはGIGABYTE従来のものと同形状のものを採用している。

 サーマルパッド、保護シート込みで23.57gであるため重量としては軽めだが、ヒートシンクの表面積は大きいので放熱効果はそれなりにあるのだろう。

 バックプレートにもVRMのあたりにサーマルパッドが張り付けられている。重量は50gあるのでマザーボード背面からの電源回路冷却もそれなりに期待できるだろう。

動作検証

検証環境

OSWindows 10 Pro 1909
CPUIntel Core i9 11700K
CPUクーラーProArtist DESSERTS3
マザーボードGIGABYTE Z590I VISION D
メモリCentury Micro CK16GX2-D4U3200
グラフィックスカードELSA GeForce RTX 3090 ERAZOR X
SSDCFD CSSD-M2B5GPG3VNF 500GB
電源CoolerMaster V1200 Platinum
ケースSharkoon PureSteel Black

VRMの温度をチェック

OCCT:7.2.3:OCCTテスト

 OCCTでCPUに負荷をかけ、その時のVRM温度を測定した。アイドル時は30℃台後半で落ち着いているが、負荷をかけると徐々に温度は上昇し、68℃を記録した。VRMの温度としては少し高めだが、90AのDr.MOSと巨大なヒートシンクのおかげでMini-ITXという大きさを考えれば比較的おとなしい温度である。

Prime95

 続いてCPUで素数の計算をすることで高負荷状態を作り出すPrime95にて負荷テストを行う。一般的にOCCTよりも高負荷となりVRMの温度上昇は著しいはずだ。結果は最高温度69℃を記録したものの、OCCTテストと比較すると1℃しか温度が上昇していない。VRMの発熱とヒートシンクの放熱性能が釣り合う温度が約69℃といったところだったのだろう。

メモリの安定性をチェック

 続いてエンコード品質を左右するメモリクロックの安定性をチェックする。使用しているメモリーはセンチュリーマイクロ製のものなのでメモリの品質は非常に良いものを使用している。他マザーボードではメモリクロックが全く変動しなかった実績があるものを使用している。また電源についてはコンセントから直接、ほかの機器とは別系統からの電源入力を行っている。

 結果は1599.6MHzと1600MHzを行き来している。メモリクロックのブレが多少見受けられたので使用する電源系統によってはさらに悪化する恐れもあるだろう。BIOSのアップデートがもし今後来た場合はメモリ動作が改善される可能性もあるのでメモリクロックに影響を受けやすい動画などのクリエイターはコマ落ちなどを感じたらBIOSアップデートをしてみても良いかもしれない。

M.2ヒートシンクの冷却性能をチェック

 背面のM.2スロットに関してはマザーボードにヒートシンクが付属していないため、高速なM.2 SSDを利用する際には自身でヒートシンクを用意すると良いだろう。

 アイドル時のM.2温度は39℃である。Gen4 SSDのアイドル時の温度としては少し低めであることからヒートシンクの放熱性が高そうと期待が持てる。

 SSDにリードライトテストを行い最高温度を測定した。結果は46℃でM.2の冷却力は非常に高いことがわかる。他のATXマザーボードであっても50℃を切る温度が出ることはなかなかないためZ590I VISION DのM.2の冷却能力は非常に高い。

 一方でこのZ590I VISION D最大の欠点ともいえるのが上の写真だ。VRMヒートシンクの話でも出た通りこのZ590I VISION Dはヒートシンクがヒートパイプでつながっており、チップセットヒートシンクまでヒートパイプで接続されている。チップセットヒートシンクはM.2スロットの下にあるのでM.2 SSDがVRMの発熱を吸ってしまう。そのためCPUに高負荷をかけた状態でM.2をハードに使用すると写真の通り最大74℃まで上昇してしまう。そのような使い方はしないと思っている人も多いとは思うが、このZ590I VISION DはMini-ITXながらもクリエイターマザーボードであるため、CPUとSSD同時に超高負荷状態になることは珍しくないだろう。

総評

 GIGABYTE Z590I VISIONはMini-ITXながらもクリエイター向けに作られた数少ないマザーボードである。リアインターフェースにThunderbolt4を2ポート搭載し、USB Type-Aポートも6ポート用意されているため周辺機器の拡張性は高いだろう。ただしCPUのオンボードグラフィックスから映像出力をする場合はDisplayport、HDMI端子は存在しないのでThunderbolt4ポートから出力する必要があるのでUSB Type-C to HDMIケーブルなどが必要だ。ネットワークもWi-Fi6、2.5G LANが搭載されているので高速な通信も可能だ。電源回路は非常に強力なものが搭載されているのでCore i9 11900Kを搭載しても力負けすることはなく安定した動作を実現する。このマザーボード一番のウィークポイントはVRMの発熱がそのままM.2 SSDに影響してしまうことだ。CPUエンコードをしている際は背面のM.2スロットかSATAストレージを使用することをおすすめする。その熱問題さえ打開できればMini-ITXながらも充実した機能を持つZ590I VISION Dは小型クリエイターPCに最適なマザーボードとなるだろう。