Amazonでフルプラグインの電源ながら非常に安価に入手できるApexgamingというブランドの電源を見たことがある人は少なくないのではないだろうか。1万円を切るフルプラグインの電源はそうそう多くはない。なおかつこの電源は80PLUS GOLDの認証を得ているという点で性能の悪い電源だとは思えない。しかし購入層が気になるのは性能だけではなくその電源の品質も非常に重要だろう。安かろう悪かろうというものが多いこのPC業界だが、このApexgaming AG-750Mは果たしてどうなのだろうか。

スペック

入力電圧100~240V
入力電流10A/5A
出力750W
ピークパワー出力950W
力率改善回路Active PFC
電源効率80PLUS GOLD
搭載ファンサイズ140mm
MTBF500000hour(?)
製品保証10年間
SLI/CrossFire対応
サイズW150 x D160 x H86 mm
AC Input100-240V | 10-5A | 47-63Hz
DC Output+3.3V+5V+12V-12V+5VSB
最大電流25A25A62A0.5A3A
最大電力150W744W6W15W
システム出力750W

保護回路は過電流保護(OCP)、過電圧保護(OVP)、低電圧保護(UVP)、短絡保護(SCP)、過電力保護(OPP)、過熱保護(OTP)が用意されている。

製品パッケージにはMTBFが500K(Hours)と書かれているが、筆者はそのような電源は他に見たことはない。電源に搭載されているファンの寿命は500000時間も持つとは思えないため、このMTBFは信用できる数字とは思えない。おそらく実際のMTBFは100000時間程度だろう。

また、ピークパワーが950Wとなっているが、システム出力的には750Wの電源なのでピーク時には+200Wもの電力を追加供給できることになっている。ピークパフォーマンスが設定されている電源はいくつか存在するが、+50Wのものがほとんどのため、このスペックは少々恐ろしく、実際に使用するには不安が残る。

開封

箱は黒と青がメインで電源本体のイラストが大きく載っている。パッケージからは安っぽさは見受けられない。

上部にはQ.C.PASSEDのステッカーが貼られており、出荷検査が行われていることはわかる。ただし、どの程度の検査が行われているかは不明だ。電源に付属する3ピンソケットのケーブルは日本仕様含め10種類用意されており、様々な国で販売されていることがわかる。

箱側面にはスペックや変換効率・ファンノイズのデータがグラフにて記されている。

裏面には製品に付属しているケーブル一覧、製品の特長が記されている。

開封すると箱左側にケーブルが入った袋、右側に電源本体と説明書類、ねじが入っている。

紙製の緩衝材を取り除くと本体がエアキャップに包まれて入っている。

箱から本体を取り出した。側面は下側がくぼんだデザインとなっており電源が見えるケースに入れる場合、アクセントになるだろう。デザイン性は良く筐体からは安っぽさを感じることはない。

本体上面には電源供給スペックが記載されている。その他さまざまな認証マークがしるされているほか、簡単な注意事項が記されている。

搭載されているファンのサイズは140mmとなっており、ファンレス動作には対応していない。ファンコントローラーはきちんと動作するので低負荷時は非常に静かである。

コネクタソケットはごく一般的である。Corsairなどのケーブルを使用することはできるだろうがお勧めはされないだろう。

ケーブルはナイロン製のきんちゃく袋に入れられている。

付属ケーブルは以下のとおりである。

ケーブルの量も必要十分だろう。PCIe補助電源は8(6+2)pin x 2ポートが2本用意されている。SATA電源ケーブルは4ポートが2本用意されておりSSD/HDDを大量に取り付ける場合でも十分に対応できるだろう。EPS12Vは8pinと4pinなのでハイエンドマザーボードを使用する際には足りなくなる場合も予想される。個人的には8pinを2ポート用意してもらいたいと感じた。

電源の内部構造

電源ユニットのねじ8本を外し、内部構造を見る。右下が3pinのACケーブルを刺すところである。それでは内部を詳しく見ていく。
最近の流行とは逆行し、AG-750Mの内部はホットボンドが多用されている。性能に直結するものではないのでコストカットに使用されているのだろう。

ファンはAMBEYOND Technology製の140mmのものが搭載されている。メーカー仕様は最大2000rpm最大風量107.54CFM、最大制圧6.66mmH2Oとなっている。セミファンレスは非対応となっている。

スイッチ基盤の下に入力回路がある。このEMI回路でノイズ対策をしている。

次に1次側の整流回路(ヒートシンク部)、整流ブリッジ(コイル部)、平滑回路(コンデンサ部)となっている。整流回路はGBU1506Vが並列で2つ、整流ブリッジはGBU1506の600V15A、平滑回路のコンデンサはルビコン(日本)製MXGシリーズの400V /330μF/ 105℃と400V /270μF/ 105℃を並列で2つ使用しており合計600μFに相当している。750W電源としては十分な容量となっている。

1次側のMOSFETはAPFC回路のヒートシンクと共有している。右側はAPFC回路で使用しているTPA60R150Cが3つ、左側は1次側のMOSFETのIPA60R125P6が2つ取り付けられている。

メイントランスは共振インダクタンスと二重層構造で設計され、上部巻き線は1次側/共進インダクタンス(Lr)、下部巻き線は2次側12V/-12Vとなっている。

メイントランス横の2つのコンデンサーは-12V用にSu’sconの16V/220μF/105℃を使用している。

補助電源回路の1次側にICはOB5224APを使用している

補助電源回路の2次出力コンデンサはSu’sconの電解コンデンサを使用している。サブトランスはEE22-1080uH Dash 2 B-19 1016 HMを使用。

トランスによって変圧された電力は二次側の整流回路によって再度整流される。AG-750Mはメイントランス横にヒートシンク付きのドーターカードとして取り付けられている。同期整流制御ICはMPS製 MP6923、MOSFETはIWCのAON6590を4つ使用している。仕様は40V/100A/0.99mΩとなっている。

MOSFETから同期整流子に電力は受け渡される。コンデンサはZhaoqing Beryl Electronic TechnologyのBCシリーズ16V/470uFを8個使用している。Berylというメーカーのコンデンサは聞いたことがないが、中国広東省に本社を置く電子部品メーカーだ。

2次側の平滑回路の+12V/5V/3.3VにはElite(台湾)、Su’scon(台湾)の電解コンデンサを使用している。

3.3V/5Vを12Vに昇圧するDC-DCコンバーターはドーターカードとして配置されている実装されているコンデンサはBeryl製の16V/680uF。

裏側にはデュアルチャネル同期降圧PWM制御ICとしてANPEC(台湾)製APW7159Cが実装され、各チャネルにQM3004D MOSFETが3つずつ実装されている。仕様は30V/40A@100℃/8.5mΩ。

DC-DCコンバーターの裏には電源管理・温度管理用のドーターカードが押し込まれるように入れられている。このドーターカードのWeltrend(台湾)製 WT7527Vが過電圧・低電圧・過電流・短絡保護を担っている。

保護・制御回路を経由したのち、出力ボードに電力が振り分けられる。ここでもSu’scon製の電解コンデンサによってノイズを除去している。

動作検証

動作検証としてOCCTのPowerテストを2時間実行し、電圧変動を測定した。検証環境は以下のとおりである。

OSWindows10Pro
CPUIntel Core i7 8700
CPU CoolerScythe APSALUS G6
M/BASUS TUF Z390-PRO GAMING
RAMXPG Spectrix D41 2666MHz 8x4GB
GPUELSA GEFORCE GTX1070 S.A.C
SSD 1.Intel 760p 256GB
SSD 2.Samsung 970 Evo Plus 500GB
HDDW.D. Brack 1TB
PSUApexgaming AG-750M 80+ GOLD
CASESharkoon PURE STEEL Black

+5Vと+3.3Vの電圧は基準値を下回ることはなかった。ただし、+12Vは負荷をかけると11.81Vから11.9Vまで低下した。+5Vは電圧低下を起こしていないのでPCに致命的な不具合を出すといった心配はあまりないが、+12Vの電圧が0.19V低下しているのは少々気になる点ではある。ただし、各メーカー電圧の振れ幅は±5%以内と基準を設けているメーカーが多く+12Vの電圧が0.19V低下した場合の振れ幅は-1.6%と基準振れ幅から考えれば十分及第点ではある。

総評

Apexgaming AG-750Mはフルモジュラーの格安電源として名をはせ、BTOメーカーの安価な電源として非常に有名だが、内部の作り的にはコストカットが非常にうまく行われている電源といった印象を受けた。1次平滑回路のコンデンサは日本製のルビコンのものを使用し、その他コンデンサのほとんどは台湾製(Elite、Su’scon)、整流回路に使用するコンデンサは中国製(Beryl)など重要度に応じてコンデンサのコストカットを行っている。PCの他のパーツを壊す恐れはないとは言えないが他の評判が良くない電源よりは断然巻き込む恐れは低いだろう。電源単体が壊れにくいといった評価はできないが、製品保証期間が10年と長いため、電源が単体で壊れた場合はあまり重く考えずに保証制度を使用するといった使い方になるだろう。
BTOパソコンの最廉価/低グレードの電源として選択できるこの電源だが、ハイエンド構成にて使用することには向かないだろう。ロー~ミドルレンジの構成であればAG-750Mを選択してコストを抑えても良いが、ハイ以上の構成であればより良い電源ユニットを選ぶことが無難だろう。
自作する場合でも8000円台で購入できる電源なので安さを追求しつつもフルモジュラー電源が欲しい場合には十分に選択肢に上がるだろう。