パソコンの頭脳とも言えるパーツ、CPU。普通であればショップでパッケージ版やバルク品を購入するものだ。だが時には違ったルートからCPUが売られる場合がある。
今回はそんな、どこから流通したか分からない怪しさ満天のIntel製のCPUを手に入れたので紹介していく。

まずES品って何?

ES品はエンジニアサンプル品の略称だ。

開発者向けのサンプル版、つまりテスト用の試作品のこと。ワーキングサンプルとも。

エンジニアリングサンプルは、開発中のものであるため、市販はされない。これ自体は製品ではないからである。
しかし、流出した、このような開発中のサンプル品が市場に流れることもある。積極的に取引されるものはCPUなどの例が多い(ES版CPU)。
これはPCや各種デバイス製造メーカーに対し、NDA(機密保持契約)を結んだ上で貸し出される試作版プロセッサーで、使用後は返却するか破壊することが求められるのが一般的。これを販売するのは不正行為である。
製品化前のものなので製品と仕様が異なることがあり、例えば倍率ロックが解除されている品などは市場での人気が高い。
秋葉原でも稀に正式発表前のこういった品が売られていることがあるが、合法かつ規約違反なしで売られているものは存在しないと見込まれる。購入しても、もちろんメーカー保証は一切無い。

wdic.org

つまり開発中の製品が何らかの形で市場に出回ったものである。

謎のCPU Genuine Intel(R) CPU 0000 @ 1.70GHz

今回購入したのは「INTEL CONFIDENTIAL NA QQC0 1.70GHz」と書かれたCPUだ。
これは一時期オークションサイトなどで出回っていたものである。そのサイトではCore i9 9900T ESとして出回っていた。価格は29,000円であった。今回はこのCPUを購入したので検証をしていく。

購入した時はCPUのプラケースに入れられただけの簡易的な包装で送られてきた。正直動くか心配ではあったが、問題なく動作した。ソケットはLGA1151、intel 300シリーズチップセットに対応する。 

CPU-Zでも名前はIntel Coreと表示されるだけでありCore i9 9900Tとは表示されない。
TDPはCore i9 9900Kが95Wであるのに対し、Core i9 9900T ESは35Wとかなり低消費電力となっている。
ハイパースレッディング・テクノロジーが有効化されており、タスクマネージャーでも8コア16スレッドであることが確認できる。
LGA1151に対応する8コア16スレッドのCPUは第9世代Core i9シリーズしかないのでこのES品もCore i9だと思われる。

https://www.intel.co.jp/content/www/jp/ja/products/processors/core/i9-processors/i9-9900t.html より

上の画像はintelが公表しているCore i9 9900Tの技術仕様だ。これを見るとTDPが35Wという点は変わらないが製品版は動作周波数が上がっている。ES品はベース動作周波数が1.70GHzであるのに対して、Core i9 9900Tは2.10GHzと20%以上も向上している。実際に発売されるCore i9 9900Tはベース動作周波数やターボ・ブースト時の周波数がES品よりも高いので実際の性能もES品より向上すると考えられる。

i9 9900t ESのベンチマーク

検証環境
CPUGenium Intel (R) CPU 0000 @ 1.70GHz
マザーボードGIGABYTE Z370 HD3
メモリSamsung DDR4-2666 (4GB×2)
ストレージCrucial MX300 (275GB)
TOSHIBA DT01ACA200 (2TB)
電源ユニットKRPW-AK650W/88+

今回は上記の環境でベンチマークを行った。
マザーボードの設定はデフォルトのままになっている。Kがついているモデルではないので電圧、クロックともに変更できなかった。ES品のCPUはオーバークロックできることもあるがこれはできなかった。
CPUクーラーは虎徹MarkⅡを使用。TDP35WのCPUに対しては十分な冷却性能を持っている。
メモリはSamsungのDDR4 2666を使用した。4GB×2枚を使いデュアルチャンネルで動作させている。
今回のベンチマークにはあまり大きな影響はないと思うがグラフィックボードはPalit GTX 1070 Super JetStreamを使用した。
電源ユニットは玄人志向の650W電源を使用している。CPUのTDPも35Wと低消費電力なので余裕をもった電源容量である。

定番のcinebench R15

まず初めに定番のcinebench R15でのベンチマークを行った。
なるべくバックグラウンドのプロセスも終了させた。だが一部の常駐ソフトが動いてしまっているのであくまでこのスコアは参考程度にしてほしい。

スコアは1448cbであった。これはCore i7 8700Kとほぼ同等であるがシングルコア性能は152cbである。ここはCore i78700Kが勝っている
だが今はマルチスレッドに対応したソフトウェアのほうが多いのであまり気にしなくても大丈夫だと思う。シングルコアの性能が低めなのを数で補っているようだ。

なお、4Chunksのほかの筆者のCPUのベンチマークの記録をもらった。

今回は性能が近いと思われる二つを紹介する。一つ目がCore i7 8700だ。結果は1425cbでありES品のほうが若干上回っているがシングルコアの性能はCore i7 8700のほうに軍配が上がる

二つ目はRyzen7 2700Xだ。コア、スレッド数は今回使用したES品と同じであるが、結果はRyzen7 2700Xのほうがかなり上の性能を記録した。この写真にはないが、シングルコア性能も180cbほどでていたのでおそらく今回のES品よりトータルスペックは上だと思われる。

CPU-Z ベンチマーク・ストレステスト

次にCPU-Zを利用したベンチマークとストレステストでCPU負荷を100%にして温度の変化を見ていこうと思う。
CPU-Zは Version 1.89 を使用した。

1.ベンチマーク
まずはCPU-Zのベンチマークを実行した。先ほどと同じように なるべくバックグラウンドのプロセスも終了させたが一部の常駐ソフトが動いてしまっているのであくまでこのスコアは参考程度にしてほしい。

今回は比較対象としてCPU-Z標準の機能でCore i7 8700Kと比較をしてみた。シングルスレッド性能はCore i7 8700Kを下回っているが、マルチスレッド性能ではCore i7 8700Kとほぼ同等のスコアを記録した。つまりこのES品はスレッドを多く利用できるソフトでは性能を十分に発揮するだろう。だがしかし、コアあたりの性能を必要とするソフトにはあまり強くないであろうことがうかがえる。

2.ストレステスト
つぎにストレステストを行った。CPU-Zのストレステストの機能をそのまま使用している。
下のグラフは時間と温度を表している。温度の計測はCore Tempの記録を利用し、cvsで出力されたデータをExcelで読み込み、グラフを作成した。

CPU温度は約58°Cで安定した。低消費電力のCPUなので負荷を長い時間かけていてもサーマルスロットリングを起こすことは無かった。今回は虎徹 MarkⅡを使用したが、恐らく小型のCPUクーラーでも冷却できるだろう。

実際に使ってみた感想

実は今回紹介したCPUは筆者のメインPCとなっている。ES品だということもあり故障するのではないかとハラハラしていたが、このCPUを購入してからおおよそ5か月たった。だが今のところ気になる不具合は起きていない。
しかしインターネット上では内臓グラフィックがうまく動作しなかったなどという情報もある。ES品なので固体差があるとは思うがはずれがあることも留意しておいてほしい。個人的にはi7 8700Kと同等のスコアが出たので実用上困ることはないと思っている。

今回はintel製品CPU Core i9 9900TのES品を検証した。ほとんどの自作をする人がES品に手を出すことはないと思うので参考にしてくれればうれしい。だが、ES品は通常、市場に出回ることのないものなのでintelのサポートどころか情報もほとんどないので人柱になる覚悟でないと購入はお勧めできない。あくまで各自の自己責任で試してみてほしい。