各社から第三世代Ryzenに合わせてX570チップセットを搭載したマザーボードが数多く発売された。豊富なラインナップで数多くの選択肢が広がる一方どのマザーボードを選べば良いのか迷う人も多いだろう。第三世代からは12コア24スレッドの「Ryzen 9 3900X」に加え9月には16コア32スレッドの「Ryzen 9 3950X」も控えている。これらのCPUを使いこなし、PCIe 4.0を最大限活用したいと考えるのであればそれ相応のマザーボードが必要になる。

今回は強力な電源回路や独自のPCHレイアウトが目を引くゲーマー向けマザーボード「MSI MEG X570 ACE」をレビューしていく。

MSI MEG X570 ACE 商品公式ページ

MSI MEG X570 ACEのスペック

CPU サポートAMD AM4 socket Ryzen 2000 and 3000 series processors
電源設計CPU Power: 14フェーズ
Memory Power: 1フェーズ
チップセットAMD X570
統合グラフィックDependent on installed CPU
メモリ4x DIMM, Support Dual Channel DDR4-4533+(OC)
BIOSAMI UEFI BIOS
拡張スロット3x PCIe 4.0 x16 slots (x16/x0/x4 or x8/x8/x4)
2x PCIe 4.0 x1 slots
ストレージ4x SATA 6 Gb/s port
2x M.2 port (SATA3/PCIe 4.0 x4)
ネットワーク1x Intel I211AT Gigabit LAN
1x Realtek RTL8125 2.5 Gb/s LAN1x Intel 802.11ax WiFi
リアI/O1x Clear CMOS Button
1x Flash BIOS Button
2x SMA antenna connectors
1x Optical SPDIF out port
2x LAN (RJ45) port
1x USB 3.2 (Gen2) Type-C port
3x USB 3.2 (Gen2) Type-A port
2x USB 3.2 (Gen1) ports
2x USB 2.0 ports
5x 3.5 mm Audio jacks
1x PS/2 Mouse/Keyboard combo port
オーディオ1x Realtek ALC1220 Codec
ファンヘッダー7x 4-pin
フォームファクタATX
その他 独自機能Audio Boost HD
Nahimic3Gaming
LAN Manager
Triple Lightning 4 M.2
Frozr heatsink design
Mystic Light infinity
Mystic Light 3
DDR4 steel armour
PCIe steel armor
GAME Boost
Core Boost
Dragon Center
Click BIOS 5
USB 3.1 Gen2 Type-A and Type-C
Supports AMD Three-way CrossFire
Supports NVIDIA 2-way SLI

MSI MEGシリーズはゲーマーやオーバークロッカー向けのマザーボードで、今回紹介する「MSI MEG X570 ACE」はATXフォームファクタにおいては最上位に位置する。フラッグシップモデル「MEG X570 GODLIKE」よりもやや落ち着いた外観だが機能面で大きな違いはない。

外観・付属品

箱は2重底になっており上段には静電防止ビニールに入ったマザーボード本体、下段には各種付属品が同封されている。

付属品一覧

  • ドライバCD
  • Product registration card
  • 取扱説明書
  • クイックインストールガイド
  • giveaway registration card
  • SATA 6Gb/s cable
  • LED extension cable
  • M.2 SSD用ネジ
  • ケースバッジ
  • SATA ケーブルラベル
  • WiFiアンテナ

外観

リアI/Oカバーやヒートシンクは黒基調で金色がアクセントのデザイン。電源設計は12+2+1フェーズの強力なVRM電源を備えている。PWMコントローラにはInfineon Technologies製「IR35201」が採用されている。電源制御チップはフェーズごとにドライバICとMOSFETが統合された「Dr. MOS」が使われている。「MSI X570 MEG ACE」にはDr.MOSの中でも低発熱で高効率な「IR3555」が採用されている。(Vcore 12フェーズ/SOC 2フェーズ)。基板にはサーバーグレードのPCBが採用され耐熱性や剛性が確保でき、信号損失も最大30%削減している。

そのほかにも従来製品より電力効率を30%改善した「TITANIUM CHOKE II」や、低ESRかつ10年以上の長寿命な日本製個体 コンデンサ「Solid CAP」、小型かつ高効率のキャパシタ 「Hi-C CAP」など高品質なコンポーネントが備えられている。

EPS端子には8PIN×2が設置され安定した電力供給が可能となっている。

メモリスロットの「Steel Armor」は、電磁干渉(EMI)からメモリを保護する機能や、DIMMスロットのたわみなどを防止することができる。DDR4 BOOSTといわれる最適化された回路設計と組み合わせることで安定したメモリオーバークロックを可能にする。

VRMやチップセットの冷却機構には拡張ヒートパイプが採用されている。 MOS用ヒートシンクとチップセットヒートシンクをつなげることで、冷却機構全体の放熱面積を大きくしDr.MOSやチップセットの放熱性能を高めると同時に局所的な温度上昇も抑えることができる。

メモリスロット周辺のヒートパイプは少し高くなっており、キャパシタへの影響を抑えているのが分かる。

SATA3.0(6Gb/s)端子はチップセットファンの右に4ポート搭載している。SATA_1~4はX570チップセットのコントローラーによる接続でRAIDレベル 0/1/10のハードウェアRAID構築に対応している。すぐ隣にはUSB3.0ヘッダーが設置されている。

POSTコードを表示する「Debug Code LED 」。エラーの原因を一目で判別できる。

帯域幅64Gbpsの「Lightning M.2」を3スロット搭載している。ロゴがデザインされた「M.2 Shield Frozr」がそれぞれ装備されているため高発熱なSSDのサーマルスロットリングを抑える効果が見込まれる。最上段のM.2_1は NVMe接続のM.2 SSDのみに対応し、残りの2スロットはNVMe接続とSATA接続のM.2 SSD両方に対応している。なお排他利用はない。

X570チップセット搭載のAM4マザーボードのほとんどには冷却用のファンが搭載されている。「MSI MEG X570 ACE」には業界最大級50mm口径10mm厚のダブルボールベアリングの高耐久ファンが採用されている。なおこのファンには「プロペラブレードテクノロジー」というグラフィックスカードで定評のある特許技術が使われており、φ6mmの拡張ヒートパイプを合わせた冷却機構は高い効果を期待できる。

また低温時にはファンの回転を停止するセミファンレス機能「ZERO FROZR TECHNOLOGY」が採用されており、「Balance Mode」や「Silence Mode」を選択した場合低負荷時にはファンが無回転になる。

2.5スロットの大型3連ファンを搭載した「 ZOTAC GeForce® GTX 1080 AMP Extreme」を使用してもチップセットファンへの干渉はない。非常に考えられたレイアウトだ。

マザーボードの右下にはオーバークロックなどにも便利なスタートスイッチとリセットスイッチ、「GAMING BOOST Knob」が搭載されている。

アンプ内蔵DAC には「 ES9018Q2C 」が使用されている
オーディオ回路は独立している

オーディオチップにはS/N比120dBを誇るRealtek 「ALC1220」と低ノイズ・低歪みなアンプ内蔵 DAC 「ESS 9018Q2C」を組み合わせたオーディオ回路「Audio Boost HD」を採用されている。コンデンサにはオーディオグレードのものを使用している。またメイン基板から独立したオーディオコンポーネントや、 左右のチャンネルをPCB内の別々のレイヤーに配置する回路設計で高音質なオンボードサウンドを実現している。

リアI/O部分

リアのI/Oシールドは組み込み型のため紛失の心配がない。接続端子にはPS/2端子、USB2.0、USB 3.2 Gen 2 Type-A、 USB 3.2 Gen 1 Type-A、Type-A USB 3.2 Gen 2 Type-Cを搭載している。その内赤枠で囲われているUSBポートにはケーブルが長くなりがちなVR HMDの信号損失抑え、パフォーマンスへの影響を低減することができる「VR BOOST」というリピーターチップを採用したUSBポート備えられている。

有線LANにはINTELギガビットLAN(INTEL I211AT)や2.5ギガビットLAN(Realtek RTL8125-CG )を搭載している。 また、WiFi6やBluetooth 5.0 対応した「Intel AX200」がM.2スロットに実装されている。(Wi-Fi 802.11 a/b/g/n/ac/ax、2.4/5GHzデュアルバンド、最大通信速度2400Mbpsに対応)。付属のアンテナで接続することができる。

また、CPUやメモリなしの状態でBIOSの修復・アップデートが可能な「BIOS Flash」ボタンや簡単に設定の初期化ができる「 CLEAR CMOS」ボタンなど便利な機能も実装されている。

ミラーを利用し派手に光る16個のLEDイルミネーションが搭載されている。「MSI Mystic light」の設定は専用ソフト「Dragon Center」で発光パターンを設定したり、オフにすることができる。

BIOS・メモリオーバークロック

動作チェックでは主にBIOSの紹介やメモリオーバークロックについて紹介する。

MSIのBIOS画面にはEZ MODE(イージーモード)と詳細モード(Advanced)の二つのモードがある。最初にBIOSで表示されるのはEZ MODEだが設定は基本的にAdvancedで行う。

Advancedの設定項目には「SETTINGS」「OC」「M-FLASH」「OC/PROFILE」「HARDWARE MONITOR」「BOARD EXPLORER」にカテゴライズされている。

SETTINGS

システムステータスや各種の設定項目を変更することができる。主にチップセット関係の設定やブートデバイス関連の設定を行うことができる。

OC

CPUやメモリのクロックパラメータを設定することができる。設定項目は上からコアクロック、メモリ、電圧の順に並んでいる。Precision Boost Overdriveの手動設定もここで行うことができる。

M-FLASH

USBメモリを挿入時この項目を選択すると「M-FLASH」モードを起動するために再起動を要求される。Yesを選択することで「M-FLASH」モードに入ることができる。「M-FLASH」モードではBIOSのアップデートを行うことができる。

OC PROFILE

オーバークロックの設定項目を管理することができる。

HARDWARE MONITOR

ファンの回転速度の設定とシステムの各電圧値をモニタリングできる。グラフィカルUIとなっており直感的にファンの回転数を設定することができる。しかしキーボードによる数値の打ち込みができないためマウスでの操作となる。チップセットファンもここで設定可能で「Balance Mode」や「Silence Mode」を選択した場合、一定の温度を下回るとファンの回転が止まる仕様だ 。

BORD EXPLORER

マザーボードに取り付けられたデバイスの情報を見ることができる。

オーバークロック検証

今回はメモリのオーバークロックの恩恵を「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」から簡単に見ようと思う。オーバークロックが原因の故障やデータ損失はメーカーの保証の対象外で全て自己責任となる為注意が必要だ。

CPU AMD Ryzen 9 3900X
CPUクーラー Antec Mercury360 v2
Noctua NF-A12x25 PWM x3
メモリPatriot Viper Steel DDR4 PC4-33000
PVS416G413C9K x4 (32GB)
ビデオカード ZOTAC GeForce GTX 1080 AMP Extreme
システム用ストレージ Intel 760p 256GB
OS Windows 10 Pro 64 bit
電源ユニット Antec HCG850 EXTREME
BIOS VerE7C35AMS.130

今回使用するメモリはRyzen環境のメモリオーバークロックに定評のあるSamusung B-die(single)が使用されたオーバークロックメモリ、「Patriot Viper Steel PVS416G413C9K」を4枚挿しで検証する。第三世代Ryzenでは以前の世代に比べメモリのオーバークロックに伸びしろがあるため、少々高額になるがSamsung B-dieのメモリが比較的オススメだ。しかし予算を抑えるのであれば16GBx2枚刺しのHynix C-dieという組み合わせもコストパフォーマンスが優れている為おすすめできる。パフォーマンスを重視するかコストパフォーマンスを重視するか予算や用途に合わせて決めるといいだろう。

今回はメモリのオーバークロックを中心に紹介するため、CPUのレビューは割愛する。設定項目の変更はメモリのみでCPUのクロックは定格で行う。メモリの倍率変更は「DRAM Setting」から行う。メモリの性能は動作クロックやタイミングで決まる。小さいタイミングと高い動作クロックを両立することでパフォーマンスを向上させることができる。正常に動作するクロックの範囲内でより小さいタイミングの設定を探る手順を繰り返していくことになる。

インテルの提唱するメモリ拡張規格のXMP(Extreme Memory Profile)はAMD環境で厳密には対応してないが、MSIの一部マザーボードには「A-XMP」という独自のオーバークロック機能がある。「A-XMP」とはRyzen環境でコントロールできるメモリオーバークロックのプロファイルを自動で生成する機能だ。 また、Memory Try It!と呼ばれる簡易オーバークロック機能もあり、周波数とタイミングの設定をリストから選ぶことで初心者でも簡単にメモリのオーバークロックができる。

上記の設定ではOSの起動も問題なクリアし、「MemTest86」ではエラーが0だったため常用でも問題なさそうだ。メモリのオーバークロック設定は「3600MHz 16-18-18-36 1.35V」となっている。SOC電圧は1.125Vに設定している。

「 3733MHz 20-20-20-40 1.38V」では自動的に「Infinity Fabric」の周波数が半分になってしまう為「FCLK Frequency」と「UCLK Frequency」の値を上記のように設定した。OSの起動はできたが少々不安定な動作だったため「MemTest86」をかけるまでもなく常用には向かない。

FF14ベンチマーク

軽い動作検証が済んだところで本題の「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」の簡単な比較検証を行う。今回はメモリを「2133 MHz 15-15-15-36 1.2V(初期値)」「2666MHz 12-12-12-30 1.35V」「3200MHz 14-14-14-32 1.35V」「 3600MHz 16-18-18-36 1.35V」に設定しその他の値はすべて同じ数値で計測する。 メモリのオーバークロックの恩恵を調べる為CPUやGPUのクロックは変更しない。(今回のベンチマークで使用するのは「 ZOTAC GeForce GTX 1080 AMP Extreme 」)

解像度は全て1920×1080最高設定に統一して行う。

デフォルトで設定されている値の「2133 MHz 15-15-15-36 1.2V」ではメモリがボトルネックになり性能が十分に発揮できていない。

「2666MHz 12-12-12-30 1.35V」 では「2133 MHz 15-15-15-36 1.2V」に比べてスコアは伸びたもののまだまだ伸びしろを残す結果になった。

「3200MHz 14-14-14-32 1.35V」 までクロックを上げるとそれなりに1080のパフォーマンスを引き出せる数値となった。

初めに紹介した「 3600MHz 16-18-18-36 1.35V」が安定した範囲内で一番高い数値となった。 全体的にスコアを比較すると「3200MHz 14-14-14-32 1.35V」「 3600MHz 16-18-18-36 1.35V」 のスコアが近い値となった。4枚挿しで3600MHz CL16を動作させることができなかったり、3200MHz CL14でも厳しい場合は3200MHz CL16の緩めで設定してもそれなりのスコアを出すことができる為無理のない範囲で行うことをお勧めする。また今回は「Ryzen 9 3900X」を使用していた為、8コア/16スレッドの「Ryzen 7 3700X」や「Ryzen 7 3800X」を使用すれば更なるゲーミングパフォーマンスの向上が見込まれるだろう。

上記のベンチマーク検証を見ると第三世代Ryzenの環境ではメモリオーバークロックの伸びしろが増え、性能を引き出しやすくなったことが分かる。二枚挿しではさらにクロックやタイミングを詰められるだろう。「 ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」では恩恵を実感することができた。現時点では「Infinity Fabric」による制約があるため、私の検証では2枚挿しの手動で3800MHzを超える設定の場合「Infinity Fabric」 の1:1動作を確認することはできなかった。「Infinity Fabric」が1:1かつ3800MHzを超える設定は今後のアップデートを期待する。

おまけ

「 3600MHz 16-16-16-36 1.35V」

「 3600MHz 16-16-16-36 1.35V」にした場合も安定動作したがスコアは若干下回ってしまった。恐らく誤差の範囲だろう。

総評

このマザーボードの全体的な評価を箇条書きでまとめていく。

プラスポイント

  • Dr. MOS「IR3555」&「IR3599」の強力で安定した電源
  • 高品質なチョークコイルや日本製コンデンサを備えたコンポーネント
  • 業界最大級50mm口径10mm厚のファンとφ6mmの拡張ヒートパイプを合わせた強力な冷却機構
  • セミファンレス可能なチップセットファン
  • 高い耐久性と信号の損失を抑えたサーバーグレードのPCB
  • 2.5スロットの大型ビデオカードでも干渉しないPCHレイアウト
  • 重量級グラボにも対応可能な「MSI PCI Express Steel Armor slots
  • ヒートシンク付きで冷却性能の優れた3基のPCIE4.0対応NVMe接続のM.2スロット
  • IntelギガビットLANや2.5ギガビットLANを標準搭載
  • WiFi6(最大通信速度2400Mbps、Bluetooth5.0に対応)
  • ALC1220とES9018Q2Cを組み合わせた高品質なオーディオ回路「Audio Boost HD

マイナスポイント

  • SATA端子が4つしかない
  • 無線マウスに多用するUSB2.0がUSB3.2 Gen1 Type-A端子に近い

デザインやBIOSの使い勝手はそれぞれメーカーによって使用感が異なるため好みが分かれるが、各種機能を踏まえると総合的に優れたマザーボードであった。電源周りに限らず優れたチップセットファンのレイアウトや冷却機構など欲しい機能が詰まったマザーボードとなっている。ただ、M.2 SSDの普及が進んでいるとはいえSATA端子が4つしかないのは非常に惜しい点だった。