メインストリームのCPUも多コアのものが増えるにつれ、より強力な冷却環境をそろえる必要性が増えてきた。最近のトレンドを見ると、240~360mmのラジエーターや一体型ポンプを備えた簡易水冷クーラーを使用する人も少なくはない。しかし、中には水漏れを懸念しできるだけ空冷を使用したい人も多いだろう。その期待に応える製品がこのDeepcool GAMER STORMシリーズの大型空冷クーラー「 ASSASSIN Ⅲ」だ。
大型空冷クーラーと言えば、noctua「NH-D15」、CRYORIG「R1 Universal V2」などの人気のあるクーラーも存在している。今回は、Deepcool様よりサンプルを提供していただいたためレビューする。レビューでは大型空冷クーラーのなかでもメモリの干渉のしにくさと冷却性能を両立した強力なライバル、CRYORIG「R1 Universal V2」と比較、検証を行う。
製品概要
「ASSASSIN III」DeepcoolのGAMER STORMブランドから発売された大型空冷クーラーで、7本のヒートパイプと14cmファンを2つ搭載したツインタワー構造。TDP 280WまでのハイエンドCPUにも対応する。
ツインタワー構造の冷却フィンはニッケルめっき加工が施されている。また高い密度で配置することによって冷却性能を高めている。
焼結技術(Groove-Sinter Technology)を用いたΦ6、計7本のヒートパイプは内部の表面積を拡大することで、熱伝導率を向上させている。ベースプレートも同様にニッケルめっきを施し、接触面積を増やすため鏡面化されている。
二層のファンブレードが特徴的な14cmファン「TF 140S」は特許取得済みの構造で、 空気流を最大2.5m³/分まで増幅する効果があると言う。また中央から外側にかけて広くなる独自のフレーム構造により静圧を高めている。軸受けには「Fluid Dynamic Bearing(流体軸受け)」を採用している。
スペック
製品寸法 | 161×140×165 mm |
ヒートシンク 寸法 | 135×138×165 mm |
ファン寸法 | 140×140×25 mm |
重量 | 1464 g |
ヒートパイプ | Ø6 mm×7 pcs |
ファン回転速度 | 400~1400 RPM |
Fan Airflow | 90.37 CFM |
ファン空気圧 | 1.79 mmAq |
Fan ノイズ | ≦34.2 dB(A) |
ファン回転速度 (with LSP) | 450~1000 RPM |
Fan Airflow (with LSP) | 64.33 CFM |
ファン空気圧 (with LSP) | 0.81 mmAq |
Fan ノイズ (with LSP) | ≦26.8 dB(A) |
ファンコネクタ | 4-pin PWM |
ベアリングタイプ | Fluid Dynamic Bearing |
ファン定格電圧 | 12 VDC |
ファン定格電流 | 0.21 A |
ファン消費電力 | 2.52 W |
商品外観・パッケージ
緑と灰色のパッケージデザイン。クーラーそのものが大きいのもあるが箱もかなり大きい。
ヒートシンクはスポンジで厳重に梱包されていたため、商品へのダメージは伝わりにくい。しかし、台座の部分は少々外しづらいため、取り出す際にはフィンを曲げないように注意して取り出した方が良いだろう。
ファンクリップは3セットあるため追加でファンを搭載できるが、同型番のファンが発売されていない。
ファンを取り付けた状態の「ASSASSIN III」。比較対象の「R1 Universal V2」と比べても大きいことが分かる。デザインは「Obsidian-like spoiler」と呼ばれる黒曜石をイメージしたデザインで「R1 Universal V2」の白を基調としたデザインとは対称的だ。
ファンクリップは、12cm角ファンと互換性があるため同じタイプのCRYORIG「XF140」や通常の12cmファンも装着可能。
性能比較
上記で述べた通り「R1 Universal V2」比較対象に用意した。
MSI MEG X570 ではギリギリメモリ干渉しない絶妙な場所に位置している。
ヒートシンクがメモリの頭上に位置している。メモリのヒートシンクが高い場合はファンの位置を上にずらす必要があるため、ケースとの干渉にも気を付けなければならない。
ノイズの計測にはMETERK製の騒音計「MK09」、グリスは「DX-1」で統一。
ベンチマーク
CPU | AMD Ryzen 9 3900X |
CPUクーラー | 1.ASSASSIN III 2.R1 UNIVERSAL V2 |
メモリ | Patriot Viper Steel DDR4 PC4-33000 PVS416G413C9K x4 (32GB) |
ビデオカード | ZOTAC GeForce GTX 1080 AMP Extreme (計測時ファンレス動作) |
システム用ストレージ | Intel 760p 256GB |
OS | Windows 10 Pro 64 bit |
電源ユニット | Antec HCG850 EXTREME |
BIOS Ver | E7C35AMS.150 |
騒音レベル(暗騒音 38-39dB)
回転数(RPM) | 400 | 600 | 800 | 1000 | 1200 | 1300 |
R1 UNIVERSAL V2 | – | 39.2 | 41.8 | 44.4 | 48.5 | 50.3 |
ASSASSIN Ⅲ | 38.1 | 40.6 | 42.3 | 45.2 | 49.0 | 52.1 |
800RPMまでは両者共にノイズは気にならないが1000RPMを堺にファンのノイズが気になるように感じた。低回転数の場合は両者の差はほぼ感じなかったが、1300RPMまで回転数を上げると「ASSASSIN」のノイズレベルが若干高く、体感でも少々うるさく感じた。
冷却性能
今回行ったベンチマーク測定はCinebench R20(5回測定)、Prime95 Small FFTs(30分)、OCCT CPU:LINPACK(30分) の三つのテストを行いそれぞれの最高温度を比較する。定格クロックとPBO+自動OC(PPT 300W)をケース内、ケース外と想定場所を分けて記録を取った。測定に使用したケースは「Antec P101 Silent」。排気箇所の少ない静音ケースで熱の籠りやすい構造だが、どの程度影響してるかも兼ねて検証を行う。「Antec P101 Silent」のケースファンのフロントにはNoctua「NF-A12x25」を3枚、リア側にはNoctua 「NF-A14 industrialPPC-2000」を使用した。 「NF-A12x25」はケース付属のファンコントローラーのLowモード、 NF-A14 industrialPPC-2000は1300RPMに統一してテストを行った。
R1 UNIVERSAL V2 (アイドル時43℃)(室温27℃)
ASSASSIN III (アイドル時41℃)(室温28℃)
両者で大きな差は出なかったものの、約2~5℃「ASSASSIN III」が勝る結果となった。ただ、PBOを有効にした状態では、Prime95 Small FFTsの計測時「R1 UNIVERSAL V2」の動作クロックが全コア3.94GHzまで 下がっていた中、「ASSASSIN III」は全コア4GHzを割ることがなかった為「ASSASSIN III」の方がRyzen 9 3900Xの性能を引き出せていた。
総評
プラスポイント
- 黒を基調とした落ち着いたデザイン
- 銅製ベース、冷却フィンは経年劣化に強いニッケルめっき加工
- ファンクリップが3セット付属するため増設可能
- 表面積を拡大する「Groove-Sinter Technology」を用いた7本のΦ6ヒートパイプ構造
マイナスポイント
- メモリにヒートシンクがある場合、ケースと干渉する可能性がある。
- 前側のファンがメモリを覆っているため取り外しが不便。
今回検証に使用したPatriot Viper SteelシリーズのメモリのサイズはW135.7×D44.4×H7mmと高めだったため、高さ180mmのクーラーまで対応の「Antec P101 Silent」でもギリギリだったため購入する場合は注意が必要だと感じた。標準仕様でセットするにはヒートシンクのないメモリを選択するか、ロープロファイルのものを選択するといいだろう。それに比べて「R1 UNIVERSAL V2」は高さを変更することなく取り付けられる点や、メモリの取り外し容易である点などがあり万人にはお勧めしやすい。
今までラインナップの少なかったハイエンド大型空冷クーラーに新しいモデルが出ることで、今まで以上に選択肢が増えたのはありがたい。高さを考えるとケースなどを選ぶ製品だが冷却性能も高く、大型空冷クーラーの有力な候補となり得る製品であることは間違いない。