内蔵グラフィクス性能の優れたRyzen APUは小型ベアボーンであるASRock 「Deskmini A300」シリーズと共に日本国内で非常に大きな話題となった。筆者も「Ryzen 7 PRO 4750G」の登場と共に「Deskmini A300」でコンパクトなPCを作ろうと考えていたが「Deskmini A300」シリーズは正式対応されず、サポートされている「DeskMini X300」シリーズは発売がCPUの発売からしばらく先であった。代替案を考えたところ、「SILVERSTONE Milo 10」にITXマザーボードを組み合わせることでコンパクトかつ自由度の高いPCを構築できることが分かったため、B550のITXマザーボード「B550I AORUS PRO AX」と組み合わせて高性能なミニPCを作ることにした。
CPU AMD Ryzen 7 PRO 4750G
Ryzen 7 PRO 4750Gは、8C16TのZen2アーキテクチャを採用したAPUだ。GPUのコア数は「Ryzen 3 3200G」のRX Vega Graphics 8と同じだがクロック数の調整によりグラフィックス性能も強化されている。また、CPU・グラフィクス性能を向上させながらもTDPが65Wとかなり魅力的な仕上がりだ。
マザーボード B550I AORUS PRO AX (rev. 1.0)
マザーボードは90A SPSで6+2フェーズ設計のGIGABYTE「B550I AORUS PRO AX (rev. 1.0)」を採用した。RAA229004+ISL99390で構成されるVRM電源はRyzen 7 PRO 4750Gには十分すぎる性能を有している。また、唯一映像出力を三系統持つB550マザーボードでありAPUと相性が良い。USB Type-Cヘッダーがないのは使うケースによって痛手だが、今回使うケースにはType-Cコネクタがないため問題ない。
メモリ Crucial CT16G4DFS832A (16GB) ×2
メモリはMicron製チップ(B-Die)を実装したCrucial「CT16G4DFS832A (16GB)」を採用した。速度はJEDEC規格に準拠したDDR4-3200(PC4-25600)でゲーム性能を引き出すことは厳しいが今回は速度よりも安定性を重視した。
パソコンSHOPアーク
CPU クーラー noctua NH-L9a & Scythe KAZE-FLEX 92mm PWM
CPUクーラーにはロープロファイルクーラーで定評のある「NH-L9a」を採用している。全高37mmと高さが抑えられていることから特に「Deskmini」をはじめとする自作ユーザーに支持されているクーラーだ。使用しているケースの高さによっては25mm厚のファンを取り付けることも可能。今回パーツを調達した時は運悪く「NF-A9」が手に入らず統一することができなかったが、サイズの「KAZE-FLEX 92mm PWM」もコストパフォーマンスに優れたファンだ。「NF-A9」が手に入らない場合は代替品として選択すると良いだろう。
ストレージ ADATA SX8200 Pro
SSDはADATA 「SX8200 Pro」を2種類の容量で用意した。NANDはMicron 「B27B」でDDR3キャッシュにはSamsung製のものが実装されていた。ロットによって実装されているパーツ(コントローラーは除く)が異なるが、筆者は少なくともNANDにMicron(64層・96層)、DDR3キャッシュにNanya製やSamsung製が実装されたものを確認している。
DC/DCコンバータ Mini-Box PicoPSU-160-XT
ACアダプタ―は通常このマザーボードでは使用出来ないため、ATX用DC/DCコンバータ「Mini-Box PicoPSU-160-XT」を使用してACアダプターを使用可能にする。中華製の類似品もたくさんあるが電源の系統に妥協したくないためこちらを選択した。ただ、類似品のものと比べて倍以上の値段の為予算に応じて選択すると良い。
ケース SILVERSTONE Milo 10(SST-ML10B)
「Milo 10」は2.8リットル・3.7リットルと二つの大きさが選べる拡張性に優れたケースだ。3.7リットルを選択することで高さが63mmから84mmになる代わりに背の高いクーラーを載せたり光学ドライブや2.5インチのストレージ類を追加することができる。今回はCPUクーラーのファンを25mm厚のものに変更したため、3.7リットルタイプを選択した。クーラーの高さがアップしたため2.51インチのストレージが取付不可能になったが代わりに冷却のパフォーマンスは上がっている。筆者の構成は元々ストレージを全てM.2端子で済ませるつもりだった為問題ない。ケース上部にはファンと一緒に取り付けるタイプの防塵フィルターを取り付けている。マグネットで固定可能だがずれないようにねじ止めしている。(メンテナンス性が落ちるためネットを水洗いしたい人にはおすすめできない)
ケースファン XINRUILIAN X-FAN 「RDL5010S」
ケースに50mmファン(10mm厚まで)のファンが搭載可能だったため、XINRUILIAN X-FAN 「RDL5010S」を三つ追加した。コンパクトな反面熱がこもりやすいケースの為、小型なファンでも効果を発揮するだろう。
その他
その他のパーツはAKON製ACアダプター、Thermal Grizzly minusPad8・Kryonaut、分岐コネクタなど。今回買ったACアダプターはプラグが5/2.1mmだったため変換アダプタもAKON公式の通販で購入した。AKON製ACアダプターは電解コンデンサに全て日本製を使用しているためか少々高い。12V10AのACアダプターはアマゾンでも購入できるため予算に応じて選択すると良い。下記のリンクのものは2.5mm/2.1mmφ 共用のACアダプターで変換アダプタを使わずに使用可能だ。
取り付け
ケース内は非常に狭いため、CPU、メモリ、CPUクーラー、SSDは先に取り付けておいたほうが良い。マザーボード裏のSSDはケースで冷却するため熱伝導シートを貼り付ける。X570 I AORUS PRO WIFIには熱伝導シートが付属しているがこのマザーボードには付いていないため「Thermal Grizzly minusPad8」を購入し取り付けた。
ケースの配線は非常に窮屈だがフロント側に少しだけゆとりがあるため、エアフローを阻害することなく取り回しが可能だ。
サイズはATX電源と見比べても小さい。Deskmini A300などと比べると大きいが以前レビューした「DQ850-M-V2L(W150×L160×H86mm)」と並べてみても大きく感じず非常にコンパクトに収まった。自分好みのマザーボードに加えて小型だがケースファンを取り付けることができ、更にCPUファンに25mm厚のファンを取り付けても高さに余裕がある。筆者の作りたいコンパクトPCにはぴったりのものだった。
I/O周りはこの様になる。画像左側にDCジャック(5/2.5mm)を取り付けている。
ベンチマーク
CPU | AMD Ryzen 7 PRO 4750G |
M/B | B550I AORUS PRO AX (rev. 1.0) |
CPUクーラー | noctua NH-L9a ScytheKAZE-FLEX 92mm PWM |
メモリ | Crucial CT16G4DFS832A (16GB) ×2 |
グラフィクス | 内蔵(Radeon RX Vega 8) |
システム用ストレージ | ADATA XPG SX8200 Pro ASX8200PNP-512GT-C |
ストレージ | ADATA XPG SX8200 Pro ASX8200PNP-1TT-C |
OS | Windows 10 Pro |
電源 | DC/DCコンバータ PicoPSU-160-XT ACアダプター AKON 12V10A LYD1201000UFAK |
構成は上記の通りだ。APUはメモリのオーバークロックを施すことでスコアが向上しやすいが、今回は全て定格動作(メモリは 3200MHz JEDEC規格準拠)で行う。
HWiNFOでCPU情報を読み込むとこの様に表示される。
CINEBENCH R15/R20
どちらも5回のベンチマークを行っているが、HWiNFOのSensorの値ではサーマルスロットリングは確認できず、スコアの低下誤差の範囲に収まった。
PassMark CPU MARK
Fire Stlike(Extreme)
APIにDirect X11使用した重量級ベンチマークだ。結果を見る限り重い描写のゲームは内蔵グラフィクスではやはり限界がある。軽いゲームであれば動かせるほどのスコアは出ている。
Time Spy(Extreme)
APIにDirectX 12 を使用した重量級ベンチマークだ。Fire Stlikeと同様にExtremeでも計測したがかなり厳しい結果になったが、内蔵グラフィクスを考慮すればなかなかのスコアである。
Sky Driver
Fire Strikeに比べて同じDirect X11を使用したベンチマークでも比較的軽量なベンチマークだ。
PCMARK10
PCMARK10の動作では概ねパフォーマンスを維持することが出来ている。
ドラゴンクエストX ベンチマーク
ドラゴンクエストXは比較的軽量なゲームで4Kでも普通、FHDではすごく快適とライトゲームではプレイに支障がないスコアを記録している。
ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク
1280×720・1920×1080の解像度でそれぞれ最高品質と標準品質(デスクトップ)を計測した。1920×1080の最高品質を除いて全てとても快適を記録している。内蔵グラフィクスとしても健闘しているが、メモリクロックの影響を受けやすいこのベンチマークではメモリのオーバークロックもかなり効きやすいだろう。
ファイナルファンタジーXV ベンチマーク
ファイナルファンタジーXVでは設定や解像度を下げてもプレイすることは厳しいと感じた。
ファンタシースターオンライン2(PSO2) ベンチマーク
20周年を迎えたPHANTASY STAR ONLINE 2は比較的負荷も軽いため、設定画質を上げてプレイすることも可能だ。
軽いゲームを実際にプレイ(World of Warships)
内蔵グラフィクスでこれほどのレベルでゲームができるのは驚きだ
比較的軽量なWargaming.netのオンライン海戦・海戦シミュレーターゲーム、「World of Warships」を実際にプレイしてみた。大抵のCPUに内蔵されているグラフィクスでも最低画質であれば動くゲームだが、最低画質でもフレームレートが出にくかったり敵が視認できなかったりと軽量とは言えどもディスクリートGPUが欲しいぐらいの負荷がかかるゲームだ。「AMD Ryzen 7 PRO 4750G」の内蔵GPUである7nmのRX Vega 8は前世代の「Ryzen 3 3200G」RX Vega Graphics 8とGPUコア数は同じで動作クロックを向上させた改良版で前世代の最上位APU「Ryzen 5 3400G」のRadeon RX Vega Graphics 11よりも優れている。「World of Warships」でもFHD中画質まで画質を上げても40~60FPSでプレイすることができる。この画質とフレームレートなら支障なくプレイすることが可能だ。美しい海とリアルな爆破効果を体験したい場合は上位のGPUを搭載したグラフィクスカードを搭載したゲーミングPCでプレイした方が良い。
総評
今回は製作したPCはAPU・DC/DCコンバータ・ACアダプターなど変わったパーツを多く使用しゲーミング以外の用途では十分すぎる性能を有したPCを組み上げることが出来た。今回のPCは小型な分エアフローが悪く、グラフィクスカードによる熱の影響が大きいゲーミングPCとはまた違った劣悪な環境になる事を想定したため、全体的に耐久性・安定性を重視している。長時間の高負荷状態を維持出来る様に出来るだけ高品質なパーツを選んだため妥協点は数多く存在する。ビジネス用途や軽いゲーム、動画再生など様々な場面で活躍できるだけでなく最小限のスペースで実現する小型PC、それぞれお気に入りのパーツを使って挑戦してみてはいかがだろうか。それらのパーツを収める「SilverStone Milo 10」は数多くの小型PC好きユーザーの期待に応えてくれるだろう。