小型でパワフルなPCを自作する際には一般にMini-ITXフォームファクタのマザーボードが用いられる。Mini-ITXマザーボードの多くはその小さな基板に様々な機能を盛り込んでおり、また小さいヒートシンクでもしっかりと排熱できるよう、VRMも比較的高品質なパーツが使用されている。また、ほとんどのMini-ITXマザーボードにはWi-Fiモジュールも付属しており、デフォルトで無線通信ができるようになっている。
しかし、価格は高くなってしまいがちで、例えばAMD B450チップセットを搭載したMini-ITXマザーボードは最も安価なものでさえ1万円を優に超える。

しかし、1万円前後で購入可能な、安価なMini-ITXマザーボードというのも存在する。今回レビューする「ASUS PRIME A320I-K」もその1つだ。最も安価なA320チップセットを採用し、Wi-FiやVRMヒートシンクを省いた設計となっているが、その実力はどんなものなのか。本記事ではそれを検証していく。

5X Protection IIIで高耐久

「ASUS PRIME A320I-K」は、最高級のコンポーネント、優れた回路設計、厳しい基準の採用で、マザーボードの品質と長期間に渡る耐久性を保証する「5X Protection III」で設計されている。

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5X Protection IIIはマザーボードの信頼性、壊れにくさを実現する5つの機能の総称だ。

1.ビデオカードの重さから拡張スロットを守る「SafeSlot Core」機能
PCIe×16形状スロットの固定フックを通常よりも強化することで耐久性を高めている。

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2.LAN機能を静電気などから守る「LANGuard」。
信号結合技と優れたEMI対策表面実装コンデンサを採用したハードウェアレベルのネットワーク保護で、信頼性の高い接続とより優れたスループットを保証する。

3.チップセットや各種チップを過電圧から守る防御回路
電圧レギュレータを内蔵した専用回路設計により、動作が不安定または低品質な電源供給からの予期せぬ高レベルの電圧による損傷からチップセットや各種チップを保護する。

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4.CPUへの供給電力を低遅延で正確に行えるデジタル電源回路のDIGI+ VRM機能

5.一般的な製品の3倍の耐食性を持ち錆びにくいステンレス製のバックパネル
通常のパネルと比較して、3倍の耐久性と長寿命なステンレス製のバックパネルを採用。ASUSはステンレス鋼のシールドを使用する唯一のマザーボードメーカーだ。

これらのASUSが数十年かけて積み上げたノウハウによって、優れた保護と安定性をもたらす。

「5X Protection III」に加えて、350を超えるメモリの互換性検証、1000を超えるデバイスとの互換性検証、8000時間を超える耐久性の検証によって、安全性を確保している。

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開封&各部紹介

それでは「ASUS PRIME A320I-K」を開封していく。Wi-Fiアンテナやその他付属品が少ない分、外箱は通常のMini-ITXマザーボードよりひとまわり小さい。

付属品はユーザーズマニュアル、ドライバディスク、バックパネル、M.2の固定具だ。非常にシンプルだが、必要なものはしっかりそろっている。

マザーボードは薄灰色と黒基調のデザイン。非常にシンプルで、用途を選ばず使える。

AMD A320チップセットはM.2スロット付近に存在する。チップセットの上にはヒートシンクがあり、サーマルパッドを介して熱を伝える。
M.2 SSDを装着してもこのヒートシンクには接触しないため、M.2 SSDのヒートシンクにはならない点に注意。

M.2はA320チップセットの制約のため、PCIe 2.0×4/SATA接続にとどまる。また、Athlon APUやAシリーズAPU(A6-9500等)を使用する際はSATA接続専用となるので注意が必要だ。

リアI/Oはシンプルながら必要な機能をしっかりおさえている。
映像出力端子はHDMI 1.4b(4K24Hz対応)が1ポートとDisplayPort(4K60Hz対応)が1ポートあり、デジタル2画面出力に対応する。APUと組み合わせて内蔵グラフィックを利用する際も不満はないだろう。
USBは合計6ポート。USB 3.1 Gen1が4ポートとUSB 2.0が2ポートだ。10Gbpsに対応するUSB 3.1 Gen2は存在しないが、普通に使う分には何ら問題ない。レガシーデバイスや電波干渉に強いUSB 2.0がある点は嬉しい。
その他はPS/2ポート(マウス・キーボード兼用)、Realtek RTL8111H ギガビットLAN、各種オーディオジャックとなっている。

オーディオコンデンサにはAPAQ製の液体コンデンサを採用。コーデックはRealtek AL887で、ローエンドマザーボードでは標準的だ。

最大でDDR4-3600MHz(OC),32GBに対応するメモリスロット。ただし、APUを使用する際は制約が出るため、しっかり仕様を確認してほしい。
メモリスロット裏の固定フックはしっかりとはんだ付けされており、耐久性の向上に貢献している。この価格帯のマザーボードで同じ処理を施しているメーカーはなく、ASUS製マザーボードだけの特徴といえる。

VRMはヒートシンクすら省かれており簡素なつくりだ。しかし、その性能はなかなかのもの。
チョークコイルは「MICROFINE ALLOY CHOKE(高透磁率アロイコアチョーク)」が採用されており、電力損失を大幅に低減し、効率と性能を向上している。
MOSFETにはX570マザーボードでも採用されているVishay SiC639 50A DrMOSを採用。これを採用することで、ヒートシンクなしでもVRMを比較的低温に保つことが可能になる。
また、重要な部分にはニチコン製の5Kコンデンサが採用されている。

マザーボード右側にあるヘッダ類。
フロントパネルヘッダ、ビープスピーカー用ヘッダ、4×SATA 6Gb/s、フロント用USB 3.1 Gen1ヘッダが実装されている。
リア・フロントを合わせるとUSBは最大10ポート(4×USB 2.0、6×USB3.1 Gen1)になる。これだけあれば、多くの人は不足することはないだろう。

タイトルで「安いから、以外にも買う理由がある!」といったが、そう言える最も大きな理由がファンコネクタだ。通常、ファンコネクタはMini-ITXマザーボードには2~3つしかない。2万円を割る安価なB450のITXマザーボードの場合は「ASUS ROG STRIX B450-I GAMING」が3つ、それ以外は2つとなっている。
しかし、このマザーボードには4つのファンコネクタが用意されており、なんと現在発売されているAMD Ryzen向けのMini-ITXマザーボードとしては最多である。安価ながら実用性を重視している点は非常に好感が持てる。

また、Aura Sync対応の4ピンRGBヘッダも2つ存在する(3ピンアドレサブルLEDには非対応)。RGB LED搭載のCPUクーラーやケースファンを使用することで、ライティングも楽しむことができる。

また、電源状態、およびCPU、メモリ、グラフィックカード、または起動デバイスの問題を示し、それらを迅速に診断するためのオンボードLED「Q-LED」が搭載されているため、初心者の方でも安心して組み上げることができる。このような診断LEDは赤や白1色なことが多いのだが、「Q-LED」は白、緑、オレンジ、赤の4色に分かれているおり、通常よりも判断しやすくなっている。

BIOSをチェック

ASUS製マザーボードのBIOSは見やすく扱いやすいと評判で、またネット上に多くの情報が出回っているため、初心者の方にもおすすめしやすくなっている。
それでは「ASUS PRIME A320I-K」のBIOSをチェックしていく。

まずは「EZ Mode」。主なハードウェア情報をはじめ、温度や電圧等のモニタリングやブートの順序設定やファンコントロールに簡単にアクセスできるようになっている。
デザインが洗練されており非常に見やすい。

言語を日本語に変更したところ。他社よりも日本語翻訳がしっかりしており、翻訳されている箇所も多い印象だ。

ASUSのファンコントロール機能「Q-Fan コントロール」。PWM、DC両方の制御に対応している。プロファイルはデフォルト、サイレント、ターボ、フルスピードが用意されているほか、手動設定も可能だ。

次に「Advanced Mode」をみていこう。こちらは様々な設定をより詳細に行うことができるモードだ。
一番左は「お気に入り」というタブになっており、頻繁に変更する項目を登録しておくことでその設定項目に一発でアクセスすることができる。

隣の「メイン」は「EZ Mode」で確認できる内容なので割愛する。その隣は「Ai Tweaker」だ。こちらは主にクロックや電圧に関わる設定が行える。
(R5 3600のっけてからもう一度確認>>>)ただし、このマザーボードはCPUオーバークロックには非対応のため、クロックの設定はメモリに限られる。

「Ai Tweaker」内の「Digi+ VRM」では、LLC(ロードラインキャリブレーション)やVRMの設定ができる。

「Ai Tweaker」内の電圧設定一覧

次に「詳細」タブ。こちらはシステムの基本情報や基本設定、AMD CBS設定が行える。

その隣の「モニタ」はその名の通りモニタリングができるタブ。各温度、電圧、回転数が確認できる。

「モニタ」からは「Q-Fan コントロール」にもアクセスすることができる。こちらでも細かいファン制御が可能だ。

「起動」はブートに関わる設定が行える。

BIOSアップデートの際は「ASUS EZ Flash 3」を利用する。

BIOSの紹介は以上だ。

VRM温度を検証

6コア12スレッドの「Ryzen 5 3600」を用いてVRM温度の比較を行った。公正を期すためエアコンの設定温度を固定した状態で直接風が当たらない場所に設置し、簡易水冷CPUクーラーを用いて計測を行った。

結果はご覧の通り。SiC639 50A DrMOSを搭載しているため発熱が大幅に抑えられることは予想できたが、ヒートシンクすら省略されているのにもかかわらず同社の「TUF B450-PRO GAMING」や他社のB450 ATXマザーボードを下回る温度になった。計測ミスも疑ったが、稼働中に触れてみたところ確かにかなり低温なことが確認できたためそれはないだろう。高効率DrMOSの効果がこれほど大きいとは驚きだ。

⚠

危険稼働中に実装部品を触る行為は大変危険です。故障の原因にもなりますので、真似をされないようにお願いいたします。

総評

「PRIME A320I-K」は第3世代Ryzenに対応したMini-ITXマザーボードとしては最廉価クラスの製品だが、実装パーツに抜かりはなかった。
手を抜かれがちの電源回路も、X570マザーボードで使用されているものと同じDrMOSが採用されており低発熱。コンデンサに関しても、重要な部分にはニチコン製5K品が採用されており安心だ。
M.2はチップセットの仕様で制限がかかってしまうが、グラフィックボードを搭載するPCIeはGen3×16で実装されており、ボトルネックが発生しないようになっている。
UEFIも見やすく、「EZ Mode」を使えば初心者でも簡単に各種設定が可能だ。

この「PRIME A320I-K」のポイントを簡単にまとめた。

良いところ
・A320のMini-ITXでは唯一のPCIe 3.0×16が使用可能なマザーボード

・X570でも使われているDrMOSを搭載し、VRMを低温に保つことができる

・初心者でも扱いやすいUEFI(BIOS)

残念なところ
・M.2がPCIe 2.0×4接続(最大16Gbps)

・CPUのオーバークロックが不可能

・USB Type-Cが使用不可

以上より「ASUS PRIME A320I-K」はAMD Ryzen&Mini-ITX入門にはちょうどよいマザーボードなのではないだろうか。