10月8日、ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、長年親しまれてきた据え置き型ゲーム機であるプレイステーション4の後継モデル「プレイステーション5」を、2020年末に発売すると発表した。
この「プレイステーション5」にはAMD*製 Ryzen* CPUと同じくAMD製のRadeon*グラフィックス(GPU)を使用したカスタムチップが採用される。CPUは”Zen2″コアが、GPUはRDNAアーキテクチャの”Navi”が採用されることが明らかになっている。では、これらはいったい何なのか?本記事ではそれを初心者向けに簡単に解説する。

*AMD・・・エーエムディー 正式名称はAdvanced Micro Devices(アドバンスド・マイクロ・デバイセズ)
*Ryzen・・・ライゼン
*Radeon・・・ラデオン(日本語読み)、レイディオン(英語読み)

AMDとは?

AMDは半導体大手のインテルの競合メーカーである。インテルは1968年、AMDは1969年に設立され、半世紀にわたりCPUを設計してきた。2000年代前半に競合が次々と倒産していくなか、インテルとAMDは生き残り、成長を続けた。
当初AMDはインテルが設計したCPUの製造や互換品の開発を行っていたが、1990年代には互換CPUの開発をやめ、完全独自設計へと移っていった。2000年代後半にはATIという半導体メーカーを買収し、その技術を吸収してGPUの製造を開始した。それが”Radeon”だ。その後も数々のCPUやGPUを世に送り出していき、2019年、AMDは設立50周年を迎えた。

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Ryzenの歴史

プレイステーション5に搭載される”Ryzen”の歴史を簡単に紹介する。歴史といっても、Ryzenの初登場が2017年だから長いものではない。

https://www.amd.com/system/files/2019-06/238593-ryzen-9-pib-left-facing-1260x709.png

① Ryzen 登場前(~2017年初頭)

Ryzenの登場前、AMDは危機的状況に陥っていた。2011年に発表・発売された”AMD FX”シリーズは当初、「世界初のデスクトップ向け8コア*CPU」として期待されていたが、実際の性能はインテル製の4コアCPUにやっと対抗できるほどしかなく、また性能に対しての消費電力が高かった。そのため業績が低迷し、2012年は赤字決算となった。その後も改良されたFXシリーズを発表するが、業績が改善することはなかった。
一方で、ATIを買収したことによって実現した”APU”は比較的好調だった。これはCPUとRadeon GPUを統合したもので、インテル製CPUに統合されたGPUと比較して高い性能を発揮した。
それに加え、プレイステーション4へのチップ供給という安定した収入源があったため、倒産には至らなかった。

② 第一世代Ryzen 発売(2017年春~)

そんな状況を打開すべく、AMDは全く新しい設計のCPU “Ryzen”を発表。クロックあたりの性能(IPC)を当時最新のFX系アーキテクチャよりも40%向上させることを目標に設計されたが、最終的には50%以上のIPC向上を実現した。
最大8コア16スレッドのRyzenは並列処理においてはインテル製CPUを超える性能を発揮し、注目を集めた。しかし、1コアあたりの性能は当時最高の「Intel Core i7 7700K」と比較すると大きく見劣りした。また、完全新設計ゆえの最適化問題が発生したことも相まって、ゲーム性能がインテル製CPUと比較して大きく劣るという状況は変わらなかった。
それでも圧倒的なコストパフォーマンスが人気を集め、CPU単体での販売シェアは大きく向上した。

一方で、GPU部門は苦戦していた。競合の”NVIDIA*”が設計した”Pascal”ことGeForce* 1000シリーズGPUが性能・消費電力の面でAMD Radeonよりも優れており、ゲーミングPC向けに採用されることは少なかった。ビットコインなどの仮想通貨を掘り出す「マイニング」需要により売り上げは増加していたが、2018年にはマイニング需要の冷え込みにより売り上げは激減した。

*NVIDIA・・・エヌビディア
*GeForce・・・ジーフォース

③ 第二世代Ryzen 発売(2018年春~)

2018年春、第二世代Ryzenが発売された。第一世代から安定性の向上や若干の性能向上が図られた。しかし、インテルもコア数を増やしてきたうえ、ゲーム性能では依然大きく劣っていたため、完全勝利とはならなかった。だが、インテルが供給不足に陥り、Ryzenの需要は高まった。Ryzenが登場し、インテルはコア数を6コア、8コアへと増加させることを余儀なくされた。しかし、既存の設備は4コアまでの製造*を考えられて作られていたため、増大するコア数に生産が追い付かなくなったのだ。

*エンスージアスト・サーバー向けは除く

④ 第三世代Ryzen 発売(2019年夏~)

第三世代Ryzenはプレイステーション5にも採用される”Zen2″コアで、高い性能を発揮することが噂されていた。
そして2019年7月、待望の第三世代Ryzenが発売された。第三世代Ryzenは設計の変更により、それまでのRyzenでは遅かった作業も高速化され、そしてゲーム性能もインテル製と同じ水準まで向上した。CPU単体での販売シェアは世界各地で50%を超え、インテル製CPUよりもAMD Ryzenのほうが売れるという異例の事態が発生した。
また、サーバー向けCPU “EPYC”の第二世代(Zen2コア)も8月に発表された。発表の際には超大手企業であるGoogleやTwitterなどもパートナーとして参加し、多数の大手企業が採用を発表した。
プレイステーション5に採用される”Zen2″はGoogleやMicrosoft、Amazonなどでも使われているのだ。

GPUでも変化があった。約8年ぶりとなる新しい設計のGPU “Navi”を採用したグラフィックカードが発売された。”Navi”は競合のNVIDIA製GPUと遜色ない、あるいは上回る性能を発揮し、消費電力の面でも十分対抗できるようになった。そしてこの”Navi”がプレイステーション5のGPUとして採用される。

この記事を執筆したPCも”Zen2″だ

PS4 / PS4 Proからどのくらい性能が上がる?

2020.3.18更新

では、プレイステーション5は前世代と比較してどの程度の性能なのか。簡単に比較してみた。

もちろんこの他にも性能や安定性に影響する部分はあるが、本記事ではゲームの快適さに大きくかかわる主な部分のみを比較する。
なおこの項目でのみプレイステーションを”PS”と表記する。

・CPU

PS5ではAMD Ryzen Zen2の8コア16スレッドCPUが搭載される。SMT(Simultaneous Multithreading)機能を有するため、1コアにつき2スレッド動作が可能になる。この機能については本記事では詳しく説明しないため、気になる方は調べてほしい。

実性能を見てみよう。PS4はJaguar 8コア8スレッド 1.6GHz。これは、AMD A4-9500(4コア4スレッド、1.65GHz) 2個分とだいたい同じくらいの性能である。PS4 Proの場合、コアは変わらないものの動作クロックが2.1GHzとなる。AMD A6-5200が2.0GHzなので、A6-5200 2個分とする。
PS5はZen2 8コア16スレッドで、動作クロックは最大3.5GHz(可変)。そのため、参考までに同じZen2 8コア16スレッドで3.6~4.4GHzで動作する「AMD Ryzen 7 3700X」を並べてみた。
※電力制限によって性能が大きく変わる場合があるため実際はこの通りにはならない
※CPU性能=ゲーム性能ではない

なんと、Ryzen 7 3700XはPS4 Pro相当であるA6-5200×2の6倍以上の性能があるのだ。PS5に搭載されるCPUはこれよりも若干低性能であると思われるが、それでもPS4 Proの4~5倍程度のCPU性能になりそうだ。

・GPU、メインメモリ

GPUも大きく進化した。GPUの性能の指標の1つである倍精度浮動小数点演算性能を比較してみる。
PS5のGPUはAMD Radeon Naviで36CU(演算ユニット)、最大2.28GHz(可変)。演算性能は10.3TFLOPSになる。これを、PS4や現行のAMD Radeon Navi GPUの演算性能と比較する。

単位:TFLOPS(1兆FLOPS)

なんと、2020年3月時点で市販最上位である「Radeon RX 5700 XT」よりもさらに高い演算性能をPS5のGPUは有するのだ。これなら4Kゲーミングも快適にプレイできそうだ。

GT 1030 DDR4 vs GDDR5

メインメモリは従来のGDDR5に代わり、GDDR6が採用される。バス幅は256bitで帯域は448GB/s、容量は16GBだ。
GPUはメモリ速度によって性能が大きく左右される。例えば、全く同じNVIDIA GeForce GT 1030というGPUでも、低速なDDR4メモリを組み合わせた場合と高速なGDDR5メモリを組み合わせた場合では、1グレード分ほどもの違いが出てしまう。
詳しくは右の動画を見てほしい。

GDDR5からGDDR6になることで速度も上がる。そのため、GPU自体の性能がPS4 Proと全く同じだったとしてもゲームのfpsは上がるわけだ。もちろんGPU自体の性能も向上するため、GPUの性能向上+メモリ高速化で総合的なグラフィック性能は大きく上がることになる。

ちなみに噂の8Kについては、アップスケーリングによって対応するのではないかというのが筆者の見方だ。Ryzen 9 3900X + NVIDIA TITAN RTX(現行最上位)の構成のPCであっても、3Dゲームを8Kで快適にプレイすることは困難だ。

・ストレージ

HDD vs SSD ゲームのロード時間比較

PS5では、ストレージにSSD(ソリッドステートドライブ)が採用される。SSDについての詳しい解説は省くが、これによりゲームのロード時間が大幅に短縮される。
PS5発表に対するコメントを見てみると「速くなってもゲームの容量が増えるからあまり変わらないのでは」といった意見が見られたが、SSDとHDDの速度差はそんなものではない。単純な読み書きの速度はもちろん、複雑なデータを読み書きする速度も向上する。むしろそちらの方が上昇率が大きい。
こちらも詳しくは右の動画を見てほしい。
ちなみに、ゲームによってはSSDにすることによりfpsが安定したり、向上することもある。

PS5では、PCI-Express 4.0×4接続で容量825GBのSSDが採用される。読み込み速度は最大5500MB/sと、一般的なSSDと比較しても非常に高速な部類だ。
825GBという容量はPS4 Proより少なくなってしまっているが、増設用スロットが用意されているということなので安心だ。

まとめ:プレステ5は最新ゲーミングPCクラス

本記事ではプレイステーション5に搭載される”Ryzen” “Zen2″について簡単にまとめ、スペックを考察してみたがいかがだっただろうか。

CPU→AMD Zen2アーキテクチャ採用、8コア16スレッド
GPU→4Kにも対応可能なクラスのAMD Radeon Navi GPU (RX 5700 XT)

SSD→読み込み速度5500MB/sの超高速SSD

これは現行のミドルレンジゲーミングPCをも上回り、ゲーム専用機としてはエクストリームな性能だ。よって、価格もエクストリーム・・・とまではいかないが、少なくとも初代PS4よりは高価になることは容易に想像できる。

PS4 Proとは比較にならないほど高性能になるのは明らかなので、プレイステーション5を購入予定の方はお金を貯めて発売を待とう。