7月7日、AMDからRyzen 3000シリーズが発売された。世界初の7nmプロセスで製造されるデスクトップ向けプロセッサ「Matisse」をはじめとする計7種類がラインナップ(ただしRyzen 7 3800Xのみ12日に発売延期)され、国内外の各地で2017年発売のRyzen 1000シリーズ発売時を大幅に上回る大盛況となった。ショップでは「2011年のSandy Bridge(第二世代 Intel Coreシリーズ)と同じくらいの盛り上がり」だという声もあった。

7月発売の第三世代 Ryzenは上からRyzen 9 3900X(12C24T,105W)、Ryzen 7 3800X(8C16T,105W)、Ryzen 7 3700X(8C16T,65W)、Ryzen 5 3600X(6C12T,95W)、Ryzen 5 3600(6C12T,65W)というラインナップになっているが、今回は最も安価な「Ryzen 5 3600」のパフォーマンスを見ていく。

AMD Ryzen 5 3600 -価格.com

開封・検証環境紹介

AMD Ryzen 5 3600 パッケージ
CPU・付属品。クーラーはWraith Stealth

CPUのほかに、Ryzen 5エンブレムシール、Wraith Stealth CPUクーラー、説明書、保証カードが入っていた。

Ryzen 3000シリーズからトレイが変更され、CPUが取り出しやすくなっている。また、CPU表側の端にある印が小さくなっている。裏側の印の大きさは従来と変わっていない。

検証環境

プロセッサはAMD Ryzen 5 3600のほか、AMD Ryzen 5 2600X、Intel Core i7 8700を使用する。このうち、Ryzen 5 3600は全コア4.25GHzにオーバークロックした状態での計測もした。
ただし、Intel Core i7 8700環境に関しては筆者ではなく他のメンバーのシステムであり、グラフィックボードが異なるためゲームのfps計測ができなかった。また、計測した値に関してもあくまで参考としてみてほしい。

ベンチマーク結果

それではベンチマーク結果を見ていこう。まずは「CINEBENCH R15」だ。
IPC向上のおかげか、スコアが約20%向上している。同じ6コア12スレッドのIntel Core i7 8700を大きく超えた。
シングルスレッドスコアは196cb。オーバークロックをすることで200cbを超え、シングルスレッド性能でもIntel CPUと並ぶになった。

「CINEBENCH R20」。Ryzen 5 2600Xはスコアが大きく落ち込んだが、AVX2演算器が256bitに強化されたRyzen 5 3600は非常に良好な結果となっている。

「CPU-Z」ベンチマークでも大幅にスコアが向上し、同じ6コア12スレッドのIntel Core i7 8700をシングル・マルチスレッド共に上回った。

次は「ドラゴンクエストX ベンチマーク」だ。このベンチマークはGPUだけでなく、CPUによっても大きくスコアが変化する。今回はFHD(1920×1080ドット)・最高設定で計測を行った。
結果はRyzen 5 2600Xでは20000点にギリギリ届かなかったが、Ryzen 5 3600では22500点を超えた。ここでもCPU性能の向上が明確に現れた。

「ファイナルファンタジー XIV: 漆黒のヴィランズ」のベンチマークでも同様にスコアの向上がみられた。たった一世代、しかもコア数が同じ下のモデルに交換してここまでの改善が見られるのはここ数年では極めて珍しい。

実際のゲームパフォーマンスはどのくらい改善したのか見ていこう。
まずは人気のFPSゲーム、「Fortnite」だ。フレームレートはFHD・最高設定で計測した。
Ryzen 5 2600Xでは平均123fpsだったのに対し、Ryzen 5 3600では平均147fpsになった。144Hzモニターを使用して検証したが、Ryzen 5 3600を使用している時はRyzen 5 2600Xの時と比較して、全体を通してよりなめらかに動いているように感じた。最小フレームレートも伸びており、より快適なゲームプレイが可能になった。

お次は大人気の「Apex Legends」。FHD・最高設定で、定番の「トレーニングモードを使ったfps計測」を行った。
Apex LegendsはもともとCPU依存の少ないゲームのため、Ryzen 5 2600XとRyzen 5 3600でfpsの大きな差は出なかった。

エンコード性能をみてみよう。計測にはAviutlの拡張プラグイン「x264guiEx」を使用した。
(プラグインのダウンロードはこちらから)
RyzenはもともとH.264エンコードは得意だったため、Ryzen 5 2600XでもCore i7 8700とほぼ同じ時間でエンコードが完了した。ではRyzen 5 3600はというと、Ryzen 5 2600XとCore i7 8700の両方に1割以上の差をつけている。

Lower is better

続いてH.265エンコードだ。今までのRyzenはAVX2演算器が128bitだったことが響き、苦手な作業となっていた。そのためRyzen 5 2600XはCore i7 8700に大きく引き離されている。一方Ryzen 5 3600は、AVX2演算器の強化の影響で高速でエンコードできるようになっている。
今回は検証することができなかったが、Adobe Premiere Pro CC 2019でも大幅に高速化しているようだ。
これからは今まで以上に自信をもって「エンコードならRyzen!」と言えるようになったというわけだ。

Lower is better

最後に、 PCのアプリケーション実行における総合的なパフォーマンスを計測するベンチマークソフト「PC Mark 10」のスコアをみてみる。
先にも書いたが、今回の検証環境にはばらつきがあり、Intel Core i7 8700は全体的に若干高めのスコアになっている可能性があるため注意してほしい。また、Ryzen 5 3600 OCでは計測していない。
Ryzen 5 2600XとCore i7 8700ではトータルスコアに大きな差はないが、Core i7 8700の方が若干上という結果になった。Ryzen 5 3600のスコアをみてみると、Ryzen 5 2600X・Core i7 8700よりも比較的高めのスコアが出ている。
ウェブブラウジングなどの日常的な用途でのパフォーマンスを計測する「Essentials」のスコアを確認すると、Ryzen 5 2600Xは8000を切っているのに対しRyzen 5 3600は10000を超えており、Core i7 8700よりも高いスコアとなっている。
次に、ビジネスアプリケーションでのパフォーマンスを計測する「Productivity」だ。Ryzen 5 2600Xは約7000と最も低いスコアになっており、Core i7 8700も約8000程度だ。しかし、Ryzen 5 3600はそれらを引き離し、9000超えのスコアをたたき出している。
最後に動画編集などコンテンツ制作でのパフォーマンスを計測する「Digital Content Creation」のスコアだ。何故かRyzen 5 2600Xのスコアが異様に高くなってしまっているが、Ryzen 5 3600はそれよりもさらに高いスコアが出た。
Ryzen 5 3600の総合性能の凄まじさが分かる結果となった。

コスパ最強のオールラウンダー、Ryzen 5 3600

第三世代 AMD Ryzenプロセッサは第二世代の弱点を克服し、苦手だった144fpsゲーミングやAVX2を使用したシーンでもIntel Coreシリーズと同等あるいはそれを上回るパフォーマンスを発揮できるようになった。
今回検証した「Ryzen 5 3600」は第三世代 Ryzenの中では最も安価だが、前世代の最上位モデルに食らいつくことができるような、非常にパワフルなCPUに仕上がっている。
また、消費電力の低さや冷却のしやすさも魅力的だ。CINEBENCH R20を実行して計測した消費電力は最大75W程度で、Prime95やOCCTなどの非現実的な負荷をかけた時の最大消費電力も90W程度だった。Ryzen 5 3600のワットパフォーマンスの高さがうかがえる。AVX2 256bitの実装による消費電力増加もほとんど気にしなくていいだろう。
付属のWraith Stealth CPUクーラーを使用すると、エンコード時に温度が80℃に到達するため、冷却に関しては少し気を使った方がいいだろう。ただし、Ryzenにおいて80℃という温度は危険というわけではなく、また万が一90℃を超えるようなことがあった場合には、中に入っている多くのセンサーによって安全な状態に保たれるため、そこまで気にする必要はないと思う。第三世代 Ryzenは冷やせば冷やすほど性能が上がるので、限界まで性能を引き出したいのであれば高性能CPUクーラーを用意する必要があるが、定格で普通に使うのであれば付属クーラーでも十分といえる。

高性能、省電力、低価格。Ryzen 5 3600は三拍子そろった非常に扱いやすいCPUという印象で、これからの低価格帯ゲーミングPC・低価格帯クリエイター向けPCの定番になりそうだ。