左が最新のRyzen 5 5600X、右が旧世代のRyzen 5 3600

 11月6日に解禁された最新のAMD製プロセッサであるRyzen 5000シリーズは、発売当日から品薄状態が続く大人気となった。前世代の「Ryzen 5 3600」を既に所有していた筆者は、はじめはRyzen 5000シリーズを購入するつもりはなかったのだが、「IPC19%UP」の文句に惹かれ、同じ6コア12スレッド数の「Ryzen 5 5600X」を購入した。
しかし、「Ryzen 5 3600」は初値26,000円程度であったのに対し、今回の「Ryzen 5 5600X」は39,000円超え。実に1.5倍の価格であり、そう簡単に乗り換えられるものではない。

 本記事では、現在旧世代のRyzen 5プロセッサを使用していて「Ryzen 5 5600X」が気になっている・・・という方のために、「Ryzen 5 3600」との比較レビューを行う。なお、ここで「Ryzen 5 3600X」や「Ryzen 5 3600XT」を使用しないのは、これらのモデルはTDPが95Wであることと、比較的に数が売れていないという理由があるためだ。

スペックを確認

 検証の前にまず今回比較するCPUの基本情報を確認しておこう。

 「Ryzen 5 5600X」のプロセスルール自体は「Ryzen 5 3600」のそれと変わっていないが、マイクロアーキテクチャが”Zen2″から”Zen3″へと進化している。
“Zen2″では1CCXにつき最大4コアしか実装できなかったのだが、今回の”Zen3″では1CCXにつき最大8コア実装できるようになった。
つまり「Ryzen 5 3600」では”3コア×2=6コア”としていたのが、「Ryzen 5 5600X」では”純粋な6コア”になった。これにより遅延(レイテンシ)は減り、最適化を行わなくとも性能を発揮できる場面が増えるわけだ。

 次に動作クロック。こちらはベースクロックこそほぼ変わっていないものの、最大ブーストクロックは4.2GHz→4.6GHzと大きく向上している。IPC(クロックあたりの命令数、性能)の向上と相まって、シングルコア性能は非常に高くなりそうだ。

 付属のCPUクーラーはTDP65W用の「Wraith Stealth」。背丈が低いタイプで静音性にも優れるが、冷却性能はあまり高くない。ちなみに「Ryzen 5 5600X」を付属クーラーで冷やせるのかという検証については後日別記事として投稿予定だ。

検証環境

 マザーボードはRyzen 5000シリーズに正式対応するASUS製の「ROG STRIX B550-F GAMING」を使用。BIOSは最新の1212。
メモリはPatriot Viper SteelをDDR4-3600 CL16に設定した。

▼今回使用したCPUクーラー「Scythe 白虎 弐 AMD専用版」のレビューはコチラ

CPUの基本性能を比較

 それでは各種ベンチマークの結果をみていこう。はじめはCINEBENCH R23・CINEBENCH R15・PassMark・PCMark 10・7-Zip BenchmarkでCPUの基本的な性能を比較していく。

 まずは「CINEBENCH R23」から。CINEBENCHは3DCGレンダリング性能を測定するベンチマークソフトだ。最新版のR23は時間指定の負荷テストを追加したほか、より正確なスコアを算出できるようR20を改良したものである。

 結果はご覧の通りだ。マルチスレッドスコアは「Ryzen 5 3600」の9286に対して「Ryzen 5 5600X」は11494を記録。シングルスレッドスコアは「Ryzen 5 3600」が1241、「Ryzen 5 5600X」が1559となっている。
シングル、マルチともに「Ryzen 5 5600X」が大きくリードするかたちとなった。もちろん新世代モデルなのだから性能が上回るのは当たり前なのだが、同じ7nmプロセスを採用しながらこれだけ性能が向上しているのは見事である。

 次は定番の「CINEBENCH R15」だ。近年は多コア化が進み、R15程度では一瞬で完走してしまうプロセッサも登場した。そのため、正確な性能比較をしたい場合は最新のR23を利用するのがベストだ。しかし、R15は長年にわたり愛されたため「R15における主要プロセッサのスコアが頭に入っている」という自作erの方も多いだろう。そのため筆者の記事では「CINEBENCH R15」という古いベンチマークソフトも指標の1つとして出すようにしている。

 前置きが長くなったが、結果は見ての通り。「Ryzen 5 5600X」はマルチで1969、シングルでは驚がくの254cbを記録した。このシングル254cbというスコアがどれほど凄いかというのは、競合のIntel製デスクトップ向けのシングル最強プロセッサ「Core i9 10900K」が230cb前後であるといえば伝わるだろうか。さらに注目すべきは、最大5.3GHzで動作する「Core i9 10900K」ですら届かない領域のスコアをたったの4.6GHzで軽々と出しているという点である。「Ryzen 5000シリーズ」のIPCは前世代はもちろん、Intel製プロセッサと比較しても相当高いことが伺える。なお、旧世代の「Ryzen 5 3600」は196cbと比較にすらならない。

 あまりにもシングルスレッド性能が高いためそちらにばかり目が行ってしまうが、マルチスレッド性能もなかなかに高い。PCWatchによれば、8コアでTDP65Wの「Core i7 10700」が1800cbを下回っている。このことを考えると、6コア・TDP65Wで2000cb近いスコアを出している「Ryzen 5 5600X」はマルチスレッド性能においても相当優秀であることが分かる。

 続いて様々な演算処理を行い、CPUの総合的な性能を評価する「PassMark PerformanceTest 9.0」だ。寒色系で表した”CPU Mark”は総合スコア、暖色系で表したその他の項目はそれぞれの演算ごとの性能を示している。

 全体的に順当に進化しているが、”Integer Math(整数演算)”の伸びが特に顕著だ。
また、”Extended Instructions (SSE)(拡張命令)”の項目のみ、「Ryzen 5 3600」が「Ryzen 5 5600X」を上回るスコアを出した。この結果は何度と試したところで変わることはなかった。
“CPU Single-Threaded(シングルスレッド性能)”は2829から3295にアップ。このスコアは前世代Ryzenはもちろん、それまで最強のシングルスレッド性能を誇っていた「Core i9-10900K」のそれを上回っている。

参考:https://www.cpubenchmark.net/compare/Intel-i9-10900K-vs-AMD-Ryzen-9-3950X-vs-AMD-Ryzen-5-5600X/3730vs3598vs3859

 そして次は、日常的な作業をもとにしたテストによってそれらがどのくらい快適に行えるかを計測するベンチマークソフト「PCMark 10」だ。
グラフが寒色系で表示されている項目はその分野における総合的なスコアを表しており、暖色系で表示されている項目はテスト1つ1つのスコアを表している。

 「Ryzen 5 5600X」は「Ryzen 5 3600」と比較するとスコアは上がっているものの、多くの項目で”CINEBENCH”ほどの大差はついていない。
ただし、どういうわけか唯一”Spreadsheets”の項目のみ非常に大きな差が生まれている。それに伴い、”Productivity – [Overall]”のスコアも向上幅が大きくなっている。
とにかく、「Ryzen 5 3600」から「Ryzen 5 5600X」に替えたからといって日常的な作業で快適性が増すということはなさそうだ。

 ファイルの圧縮や解凍の速度はどうだろうか。「7-Zip」に備わっているベンチマーク機能を使用し比較した結果がこちらだ。
圧縮、展開、総合評価と3つの項目がある中、「Ryzen 5 5600X」が「Ryzen 5 3600」に対して特に差をつけたのが”展開”だ。これは、シングルスレッド性能が大幅に向上したことが主な要因である。ちなみに検証中に一瞬だけ”展開”が100000MIPSを超えることがあった。これほど高速であれば、大きなファイルを解凍する際の所要時間の短縮が見込めそうだ。高速なGen4 SSDと組み合わせることでさらに作業効率が向上するかもしれない。

ゲーム性能を比較

 次にみていくのはゲーム性能だ。ここではVRMarkのスコアによるVR性能、A列車で行こう9 Version 5.0・Apex Legends・Fortniteの実測fps値で比較していく。

 「VRMark」はその名の通り、マシンのVR性能を測るベンチマークだ。結果はご覧の通り、CPUによる差はほぼ生まれていない。VRが目的であれば、Zen2からZen3にわざわざ買い替えるメリットはないといっていいだろう。

 続いて都市開発シミュレーションゲーム「A列車で行こう9 Version 5.0 ビュアーソフト」にて、オープニング画面でのfpsを計測した結果だ。
「A列車で行こう9」は2010年のゲームであり、マルチスレッド処理には対応しているもののやはりシングルスレッド性能が重要となる。そんな本ソフトであるが、「Ryzen 5 5600X」が「Ryzen 5 3600」に大差をつけていることが分かる。
この傾向は「A列車で行こう9」に限らず、他のシミュレーションゲームや少し古い3Dゲームでも同じようにみられるだろう。例えば、ちもろぐによると「Microsoft Flight Simulator 2020」でも似た傾向を示している。

 次に「Apex Legends」。マップ”オリンパス”にて所定の場所に降下し、その周辺でグレネード・スモークを伴う戦闘を行った際のfps値である。フルHD最高設定での検証だが、ビデオカードの性能を考慮してVRAM設定のみ”高(6GB)”とした。fps制限は解除してある。

「Apex Legends」はもともとCPUによる差が表れにくいゲームで、以前「Ryzen 5 3600」と「Ryzen 5 2600X」の比較検証を行った際はほぼ差が出なかった。

 しかし、今回の比較では「Ryzen 5 5600X」の最低フレームレートが72fpsと、「Ryzen 5 3600」のそれを16fpsも上回っている。高性能なビデオカードを使用すればその差はさらに開くと思われる。

 ゲーム性能比較の最後は「Fortnite」。検証はフルHD最高設定、モーションブラーありの設定で行った。

「Fortnite」のフレームレートに関しては「Ryzen 5 5600X」と「Ryzen 5 3600」の間で差はほぼ見られなかった。”Zen2″の時点ですでに頭打ちになっていたのかもしれない。

エンコード速度を比較

 続いてエンコード速度を比較しよう。今回は時間の都合上、AviUtlのみの検証となる。

 rigaya氏制作の「AviUtl」拡張プラグイン”x264guiEx”と”x265guiExを使用して同じ動画をエンコードし、その所要時間を比較する。

 H.264コーデックでエンコードする”x264guiEx”では、「Ryzen 5 3600」で432秒かかっていたところ「Ryzen 5 5600X」では351秒で終わらせている。また、H.265コーデックでエンコードする”x265guiEx”では「Ryzen 5 3600」で573秒かかる処理を「Ryzen 5 5600X」は472秒で完了させた。

 8コア16スレッドの「Ryzen 7 3700X」や「Core i7 10700」に匹敵する性能を発揮する場面もあるようなので、動画編集を頻繫に行う方は買い替えを検討してもよいだろう。

温度・消費電力

 最後に消費電力と温度を比較する。

 グラフは「CINEBENCH R23」にて、本バージョンで追加された10分間のストレステストを実行した際の消費電力と温度の最大値を示したものである。

 「Ryzen 5 5600X」と「Ryzen 5 3600」はどちらもTSMC 7nmプロセスで製造される6コア12スレッド・TDP65Wのプロセッサである。
「Ryzen 5 5600X」はプロセスルールはそのままで性能が大きく向上したのにも関わらず、ピーク消費電力は「Ryzen 5 3600」よりも8.3W弱程度低い結果となった。温度に関しては大きく変わっていないが、多少低くなっていることが分かる。

 もし現在「Ryzen 5 3600」をしっかり冷却できているなら、CPUクーラーや電源を交換せずとも安心して「Ryzen 5 5600X」に換装可能だ。

間違いなく最高の6コアCPUではあるが

 多くの場面において前世代の「Ryzen 5 3600」を上回り、苦手としていたゲーム性能も克服した「Ryzen 5 5600X」は現時点で最強の6コアCPUであることに間違いはないだろう。今からゲーミングPCを自作しようと考えている方はまず検討すべきCPUである。特に「Microsoft Flight Simulator 2020」をはじめとするシミュレーションゲームを遊ぶ方には強くお勧めしたい。
また、このCPUの評価すべき点は性能だけではない。これだけの性能を発揮するのにも関わらず、消費電力は前世代のCPUよりも抑えられているなど、扱いやすさも改善されているのだ。「Ryzen 5 5600X」は真のオールラウンダーCPUといえる。

 ただ唯一の欠点は価格である。「Ryzen 5 5600X」の国内税込み価格は39,500円前後となっており、とても6コアCPUとは思えない値段設定だ。ショップによっては前世代の8コアCPU「Ryzen 7 3700X」のほうが安価な場合すらある。絶対的な性能は持ち合わせているものの、コストパフォーマンスを考えるとなかなか手を出しにくいかもしれない。

 「Ryzen 5 3600」や「Ryzen 5 3600X」など、Zen2の6コア12スレッドCPUを現在使用しているならば、買い替えてもあまり変化を感じることができないかもしれない。逆に、現在「Ryzen 5 3500」やRyzen 3シリーズ、Zen+(Ryzen 2000シリーズ)以前のCPUを使っているならば買い替える価値は大いにある。店頭でマザーボードとセットで購入すればセット割を受けることができる場合もあるのでおすすめだ。